米朝首脳会談の舞台で警戒されるテロの脅威

世界一安全なシンガポールも危機感強める

仕事が終わりにくつろぐ出稼ぎの家政婦たち。インドネシア人家政婦の一部がISに感化され過激化する事例が報告されている(筆者撮影)

シンガポールの総人口約560万人のうち、外国人労働者や出稼ぎの家政婦などは約130万人と2割以上を占める。マレーシアとの国境にあるウッドランズ検問所は、1日数十万人が往来する世界一通過者が多い検問所として知られており、最新の顔認証システムや放射性物質や爆発物などの検出が可能な設備も導入されるなど、近年警備の強化が急速に進められている。

シンガポール出身の戦闘員がISの宣伝映像に

そもそもシンガポールは、対IS有志連合に参加しているとして、ISからたびたび名指しで非難されており、過激派勢力に対して強硬姿勢を取ってきた経緯がある。

ISに加わるためシンガポール人がシリア入りした事例もわずかながら確認されており、帰国して危険分子となり過激思想を広めたり、テロ攻撃を画策したりすることを当局は警戒してきた。シンガポール出身の戦闘員がISの宣伝映像に現れ、他の戦闘員らとともに処刑に参加している映像が流れたことも、大きな衝撃とともに受け止められている。

こうした経緯に危機感を抱き、シンガポール政府は冒頭の報告書について、「シンガポール国民は熟読して国内におけるテロの脅威が現実に差し迫ったものであることを認識し、政府とともに備えるよう協力を望む」と、テロ対策を身近な問題としてとらえるよう、たびたび国民に呼びかけているのだ。

不動産会社に勤める30代後半のシンガポール人男性は、「最近は、公団住宅でもテロ対策を目的に訓練をすることも増えている。大人だけでなく子どもも、いつテロの脅威が起こるかわからない危機意識を持って参加している」と誇らしげに語った。

つねに標的として狙われる可能性をはらんでいるという高度な危機意識を、政府と国民が共有して対策に取り組んできたシンガポール政府。実際、ニューヨークやロンドン、パリなど欧州の主要都市をはじめ、東南アジアでもジャカルタやダッカなどで相次いでテロ事件が発生してきたなか、シンガポールはここ数年1度も実際に攻撃を受けた事例がない。

しかし、多国籍企業が集中するシンガポールでテロ事件が発生した場合、ISのプロパガンダという観点から見ても、その影響は甚大であることは間違いない。

ロイター通信は今年2月、『シンガポールが警戒 武装攻撃は“時間の問題” 』と題して、シンガポールに迫るテロの脅威について詳細に掘り下げた記事を掲載。『攻撃は「起きるかどうか」ではなく、それが「いつ起きるか」という問題だ』とする当局関係者の見解を報じている。

加えて、近年の欧州におけるテロ事件に象徴されるように、ローンウルフ型(一匹狼型)と呼ばれるテロ攻撃が急増している。過激化した個人がトラックやナイフ1つで突発的に起こすテロ行為で、ISがインターネットなどを通じて積極的に実行するよう呼びかけており、まさに世界のどこの国でも起こりうる、かつ容易には防ぎがたい差し迫った問題だ。

その治安と警備の強固さを背景に歴史的な米朝会談が執り行われることになったその裏で、警戒を強めるシンガポール政府の「テロ対策」は今、ますます緊迫性を増している。

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