米朝首脳会談の舞台で警戒されるテロの脅威 世界一安全なシンガポールも危機感強める

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シンガポールの観光客が集うマリーナベイ・サンズを望む中心地の公園で銃を携え警備に当たる警察官ら(筆者撮影、昨年11月)

さかのぼること約2年前の2016年8月には、そのシンボリックな姿で観光名所としても高い人気を誇る統合型リゾート施設「マリーナベイ・サンズ」を狙ったテロ攻撃が計画されていたことが発覚し、国内で大きなニュースとなった。これは、マリーナベイ地区からわずか20キロほど離れた対岸のインドネシア領・バタム島から、過激派組織ISに忠誠を誓う過激派グループのインドネシア人6人がロケット砲で襲撃するテロ計画を企てていたというものだ。

この計画を実行したリーダー格であるインドネシア人の31歳の男は、IS戦闘員から活動資金を提供されていた疑いも出ている。国際的な金融機関のハブとして各国から外資企業や起業家などが集うシンガポールが、ISの影響を受けた過激派からターゲットにされていたという事実は、国内のみならず世界に衝撃を与えた。

さらに、昨年11月には25歳のシンガポール人の男が、先述のJIに関連する学校で影響を受け過激化したなどとして摘発されたほか、ISのサポーターメンバーである38歳のシンガポール人主婦が、ISの戦闘に加わろうと企てていたことから拘束された。この主婦もまた、ソーシャルメディアを通じて感化されたことが明らかになっている。

過激化したシンガポール人の摘発は近年急増しており、2007年から2014年の8年間にわずか11人だったのが、2015年からの2年半ではすでに少なくとも14人が拘束されるなどしているという。

国を支える数多くの出稼ぎ労働者も危険分子に

数十万人もの外国人家政婦や建設労働者など外国人の出稼ぎによって単純労働が支えられているシンガポールにおいては、出稼ぎ労働者が国内で過激化する問題も浮上している。

過去には、シンガポールで働くバングラデシュ人の出稼ぎ労働者40人が過激化し、シリアでのISの戦闘に加わろうと数回にわたって試み、母国バングラデシュ政府を転覆させ、カリフ制国家を樹立しようとしていた事案が発生。同じく過激派思想を持つ27人のバングラデシュ人労働者が、テロ行為を奨励する組織として集会を開くなどしていたとして逮捕され、本国に強制送還された例もある。関係先の捜索では、ISの訓練の様子が映ったビデオなどが押収されたという。

昨年、インドネシア人の出稼ぎ家政婦の女性2人が、ISの戦闘に参加するためシリアに渡航を企てていたなどとして強制送還された。出稼ぎの家政婦たちは、Facebookなどのソーシャルメディアでジハードの情報に触れるなどして感化されやすく、自爆テロの実行に勧誘される格好のターゲットにもなっていると指摘されている。

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