引きこもりが救う?コンテンツ輸出の世界戦略 角川歴彦×川上量生対談(4)

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言語と宗教と文化の不思議な関係

角川:今回、マレーシアとシンガポールに4日間行って、学ぶべきことがあったなあと思ったのは、もともとシンガポールは7割が中国人なのです。リー・クアンユーさんも中国人ですよ。客家(はっか)だから。ところが、50年前にシンガポールを作ったときに、公用語を中国語にしなかったんだよね。これってすごいと思わない? これからシンガポールという国を作らなきゃいけないと考えたときに、彼が選んだのは英語なんです。国民が中国語を忘れてもかまわない。だから、今のシンガポールの人たちは、中国出身でも、自分たちは中国人じゃなくて「シンガポーリアン」だと思っているわけ。50年の間にそういう意識が出来上がっているのです。

お隣のマレーシアは、マレー人が7割弱でインド人や中国人もいる。でも、彼らもシンガポールを見て、英語を取ったわけですよ。でも、マレー語も捨てなかった。ところが、マレー人というのはイスラム教徒なんです。そうすると、今度は4000万人のマレー人が思想的に自由な読書をしようと思うと、イスラムの戒律の関係で、マレー語では読めない場合も多い。それで英語と中国語で読むのです。マレー語で書けばイスラムの検閲に引っかかるけども、英語と中国語で書けば、そういう規制がない。だから、マレー語の本は売れなくて、売れるのは英語と中国語の本なわけ。面白いと思わない?

川上:面白いですよね。昔の中国語がそんな形で残っているのは。

角川:だから、僕たち日本のコンテンツ事業者は、もっとアジアを知らなきゃいけないと思ったの。もっと大胆に出ていかないとダメだよなと。マレーシア人にコンテンツを売るのに、マレー語よりも中国語のほうが都合がいいなんてことは、日本の中にいたら絶対にわからない。

引きこもりのネット住人こそ、世界とつながる切り札

川上:コンテンツの海外進出については、僕は個人的にはネットをうまく活用したいなと思っています。というのは、ネットのいちばん「濃い」人たちが、毎晩、外国人とオンラインゲームをやっていたりするわけです。むしろネットの中の、部屋にこもっている人たちが、日本の中で今、最も世界とつながっているのです。

彼らは英語の新しいゲームが出てもまったく苦にしないで、面白ければ、どんな国の言葉であれ、楽しんでいる。そういうことをやっているのが、実は部屋にいる引きこもり、ニートなんです。

角川:だから、ゲーマーの才能をもっと生かさないといけない。川上くんの本にも、最初のほうに「ビジネスに勝つための高い能力と経験値を持っているのがゲーマー」という文が出てきます。ただ、「ゲーマーという人種の最大の欠点は、労力や時間のほとんどをゲームに注ぎ込みがちになることです。ただ、それも何かのきっかけで変えられるかもしれません。そして、『ゲームそのもの』ではなく『人生というゲーム』にしっかりと向き合う気持ちになれたなら、ゲーマーが持っているポテンシャルが大いに発揮されるはずです」と続いている。

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