引きこもりが救う?コンテンツ輸出の世界戦略 角川歴彦×川上量生対談(4)

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――逆に言うと、日本語のコンテンツを日本国内で作っているのは、国内市場への参入障壁が高いという意味でも、ひとつの強みになっているということですか。

川上:僕は強みになると思っていますね。

アジアのラノベ市場は今や日本の独占ではない

角川 歴彦(かどかわ つぐひこ) 株式会社KADOKAWA取締役会長。1943年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。内閣官房知的財産戦略本部本部員、東京大学大学院情報学環特任教授などを務める。著書に『クラウド時代と<クール革命>』(角川書店)がある。

角川:日本の人口が1億2000万人いるというのは、とても幸せなことなんですよ。ただ、それ以上売っていこうと思えば、外に攻めていかないといけない。

僕は、漫画が世界に広がっていったように、ライトノベル(ラノベ)も、もしかしたら外国に売れるのではないかなという夢を持ったわけです。それで10年前に台湾角川を作った。「台北ウォーカー」からスタートしたんだけど、今の主力はライトノベルの翻訳です。

『ロードス島戦記』から火がついた日本のライトノベルが、なんと台湾から香港に飛び火して、中国で売れて、今はアジア全体で売れているのです。もっと驚いたのは、先日、マレーシアとシンガポールに行ってきたんだけど、台湾の人たちがライトノベルを書き始めて、台湾のライトノベルがマレーシアで売れている。そうしたことがもう現に起きているわけです。

ライトノベルは日本の独占市場だと思わないほうがいいですよね。マレーシア国内には、日本のライトノベルの翻訳版がなかなか入ってこない。KADOKAWAの販売力がまだ弱いから。そこで、台湾で作ったライトノベルが入ってくる。そうすると、マレーシアの人から見れば、台湾のライトノベルがオリジナルだと思っているんですね。

そういうことを考えると、日本はもっと自信を持ってアジアに、世界に発信していかなければいけない時代なんだと思います。この点で、まだまだ僕たちには能力が欠けている。広げていく力が足りない。そう思います。

川上:最近、聞いたのが、韓流ドラマがアジアで流通し始めて、日本人に対する感情が悪化しているという話です。韓流ドラマに出てくる日本人は、たいてい悪役なんです。しかも、それがたとえば第2次大戦中の話だったら仕方がないんだけど、現代のドラマでも、ひどい人間に描かれていることがある。そうしたドラマをマレーシアやシンガポールの人たちが見て、日本人のイメージが悪化しているというんです。

それに対抗していくといっても、まあ、こっちは韓国人を悪者にしたドラマを作るわけにもいかないから、「日本人はいい人なのだ」という文化を発信しないと、長期的にはかなり国益にかかわる問題だと思います。

角川:一方で、中国では、あまりにも日本人を悪く描いたテレビドラマばかり流しすぎたものだから、日本人俳優に同情が集まって人気が出たという話もあります。中国人が日本人の役をやると売国奴みたいに非難されるから、仕方なく日本人を雇って日本人の役をやらせていたのだけれども、かえって人気が出たという。日本人の知らない日本人の役者が、中国で人気者になったりしているのです。

川上 量生(かわかみ のぶお) 株式会社ドワンゴ代表取締役会長。1968年生まれ。京都大学工学部卒業。97年にドワンゴを設立し2000年より現職。ニコニコ動画やニコニコ超会議、ブロマガなど、数々のイベントやサービスを生み出し、同社を東証1部上場企業に育てる。

川上:中国では体制批判は御法度なので、自由に作品を作るのは難しい。でも、反日をテーマにすると何でも企画が通るので、別に反日ドラマを作る気はさらさらないのに、取ってつけたような反日ドラマを作ったりする。だから今、当局の規制が入らず、最も自由な創作活動ができるのは反日ドラマで、向こうのクリエーティブの中心になっているという話なんです。で、あまりにもやりたい放題なので、「もっとまじめに作れ」みたいなおしかりがあったりして(笑)。

角川:だからもう中国の若者の間では、さすがにこんなに日本が悪いはずはないと思う人が増えている。まあ、情けない話ではありますが。

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