実は人名、16代目「川柳」が"吐く"人間の本質 「すこしつかれてあたたかい色になる」

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《骨だけになってたしかな春をまつ》

そもそも風景などを詠む俳句に対し、川柳は暮らしの中の人情や人生の機微を表現する。人間を見つめ、人間そのものを描く。ときに自分も世間も痛快に笑い飛ばし、だからこそ身近なものとして大衆の人気を集め、それは現代の川柳ブームとも呼応する。

ただし、言葉の掛け合わせなど、表現自体でユーモアをねらうはやりの川柳は、本来「狂句」で、川柳ではないという。川柳の特性は“うがち”と呼ばれる、人と異なる視点で物事の本質を暴く見方だと尾藤さんは説明する。“うがった”見方から生じる、風刺やウイットに富む川柳ならではの笑い。ユーモアへの仕掛けが内在していても、そこだけに終始する狂句は川柳の一部に過ぎず、もっともっと川柳はスケールが大きい豊かな文芸ということなのだろう。

てのひらに十七音の心電図

人間を直接よむ川柳。尾藤さんは句会に集うシルバー世代の人たちを前に「人生が長いほどうまいのは当たり前」と言う。これからの時代に「川柳は人生の杖になる」とも。そんな彼の句には、恩師や家族や自身を含め、身近な人生を見つめた句は多い。

《針の痛みに針ほどの生》
《欠けた教えの語尾の灰寄せ》
《さいごは妻のぬくいほほ笑み》

社会の中で生きる川柳をテーマにする尾藤さんは、時代性のある物事や言葉を斬新に取り込む。新しい試みとして、映像と句を融合させた「フォト川柳」での発信も積極的だ。

《オリを出た野獣が放つシーベルト》
《ハマグリも蜆も溜まるネットカフェ》

今年は初代川柳生誕300年に当たる。先人を偲ぶさまざまな句会や、歴代川柳の史料などを展示する「川柳展」といった記念行事も目白押し。9月には柄井川柳の命日「川柳忌」のイベントもひかえる。

《蹴飛ばした石が明日へころげだす》

川柳ブームの向こうには、川柳の奉仕者を自認し忙しく転げ出した、現代に生きる「川柳」がいる。

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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