地方を滅ぼす「有識者会議」というバクチ予想 なぜ「見せかけの競争」は地方を衰退させるか

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このように、結局誰が責任をもって決めて執行しているのかさえわからない、誤った「予算獲得競争制度」は、成果を生み出さないばかりか、無駄な競争の結果生み出された「失敗」さえ引き継ぎされず、むしろ失敗が再生産される仕組みでしかありません。

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本来、国が地方に予算を配る余力があるのなら、そもそも地方に財源委譲するほうが効果的です。獲得競争などする必要はなくなり、あとは自治体が与えられた財源で最大限の効果を生み出すことと向き合えばいいだけなのです。国が予算を配分する際に下手な獲得競争にコストをかけるより、機械的にばら撒くほうがまだマシなことも多いしょう。

こと地方活性化事業に限っていえば、よりドライな結論になります。

地方の活性化とは、多くの人が集まり消費をしてくれて、その売り上げから必要な施設開発や人件費などを捻出して利益を生み出し、さらにその利益をもとに次なる事業へと投資していくというサイクルを作ることに他なりません。「活性化事業として成功する=市場競争で勝てるものを目指す」べきだからこそ、行政予算に頼る必要はなく、むしろ民間資金から調達することが地域の力になります。

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私たちが全国でかかわるプロジェクトは、北海道から沖縄まで、営業が優先で計画を組み立て、自分たちや仲間との出資、銀行などからの融資で回しています。それこそが、地域状況に適合する事業となります。「地方なのだから補助金がないと事業が回らない」と言う人に限って、身の丈に合わない過剰投資計画をつくったり、消費者から支持されないような魅力のない事業をつくっています。それを、地方を言い訳にして正当化していることが多いのです。そんなものに、民間は誰も投資や融資などしたくはありません。

今の時代、自己資金でスタートすることはもちろんですが、数億円~数十億円程度の事業ならば、個人投資家のクラウドファンディングや全国の金融機関のファンドなどを通じたスタート可能で、事業実績を積めば、当然それ以上の資金調達も見えてきます。実際に、北海道のニセコをはじめ国際的に評価を高めている地域には、多額の民間資金が流入しています。勘違いしてはいけないのは、最初に大きな予算がついたから繁栄したのではなく、昔は二束三文だった土地に価値を見いだし、事業を積み重ね、その評価が高まったから資金は集まるのです。何より投資家や金融機関は資金を出した事業が成功することにインセンティブがあります。逆に失敗をすれば損害を負ったり、組織として損を出せば判断者の人事に影響が出るため、多数の人達が真剣に可否を判断します。

一部の責任のない審査委員の判断をもとに、擬似的な競争にさらされている今の政府予算獲得競争制度は、地方政策だけではありません。本来は税による再配分分野である、大学教育や医療・福祉事業分野などにも大きな負の影響を与え始めています。

「有識者会議のバクチ予想」に基づく予算配分という無責任な「見せかけ競争」だけは、早期になくすべきでしょう。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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