地方を滅ぼす「有識者会議」というバクチ予想 なぜ「見せかけの競争」は地方を衰退させるか

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数人の役人や有識者、議員などによって構成される審査委員会による誤った競争制度は、大きく言って2つの問題を生み出しています。

(1)地方は 審査委員好みの「机上の計画づくり」に走る

審査委員会に認められ、計画に予算がつくからには、審査委員に評価されるよう競争を勝ち抜かなくてはなりません。そのとき、地方は何をするか。審査委員会が好むような計画を考えるようになります。それだけではありません。隣近所のライバルの自治体に出し抜かれることがないよう、自分たちの職員を国の部署に派遣して情報を取ったり、逆に国の出向者を重要ポストに招いたり、審査委員会の委員を務めている大学教授などの有識者を講演会に招いたり、とコネ作りに必死になります。

しかし、委員会が示す「良い計画」とは、委員会の構成員が好ましいと思うようなアイデアであり、それが単に予算配分の中で決まっていくだけです。計画に予算がついても、それは地方にとって事業の成功を約束するものではありません。

たとえば地方において新たな拠点を作る計画があるなら、本来なら施設の利用者や入居するテナント向けの営業に全力を傾け、必要な事業資金については金融機関と協議して融資条件を詰めなくてはならないのです。こうした過程の中で計画がニーズと合致しているのかをつかみ軌道修正もできます。民間なら当たり前ですが、それこそが市場に適合した事業開発です。しかし予算が欲しい地方自治体などは、国の担当部署などに「何をやったら予算をくれますか」などという究極の質問をしてしまうこともあります。

予算獲得競争は成功を生むどころか失敗を再生産する

(2)自治体も国も誰が責任者? 不明瞭な競争が生み出す大失敗

まず、地方自治体などでは国から認定を受け、予算がついた段階で、担当者を人事異動させてしまうことが多くあります。「目標=予算獲得」が達成された、お疲れ様!ということです。本来なら、そこから実際の事業が開始となり、計画を立てた人がギアを一段上げ、本気をだして本来の市場競争にさらされるはずです。が、予算とって満足、はいおしまい!というわけです。

さらに予算を獲得した段階で担当者が変わってしまえば、次を任される担当者は経緯も良くわからない。人がつくった計画に気合が入るわけもなく、予算を使って終わり、ということが相次ぎます。

一方、審査する側の国の委員会も、意思決定責任は不明瞭です。そもそも選定した事業が成功しても、失敗しても、選んだ国の審査委員には何の影響もありません。選んだ事業が成功すれば歩合で報酬アップというインセンティブがあるわけでもなく、失敗したらペナルティがあるわけでもなく、1回の会議あたり2~3万円程度の謝金が出る程度です。もちろんおカネがすべてではありませんが、提示される紙プラスアルファの計画書だけで、何をどう本気で事業判断するというのでしょうか。

国としても、予算を決めたのは委員会という場であり、固有の担当者ではありません。さらにタテマエは「地方自らが立てた計画」ということで、成功するか否かはあくまで地方の責任であり、失敗しても国が何らかの認定責任を負うものでもありません。さらには国側の担当者も地方同様、頻繁に異動しているため、前任者の時代に認定した事案の失敗が明らかになっても、所詮は前任者の仕事に過ぎません。

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