日本政府の基本方針「中東和平についての日本の立場」は読みにくいが、その中には日本にとって重要な問題が詰まっている。
具体的には、「日本は複雑な中東においてアラブ寄りになることも、イスラエル寄りになることもできない。中東の問題は、両者により、かつて植民地の宗主国であった欧州諸国やグローバルパワーである米国、また、国連の力を借りて、平和的な方法で和解してもらわなければならない」という立場が込められている。つまり、当然だが、日本の基本方針は日本の利益を守ろうとしているのだ。
しかし、米国は制裁措置を復活させる。日本や欧州の石油関連企業は大きな打撃を受けるだろう。日本の原油輸入の12.5%はイランからであり、これはアラブ首長国連邦およびサウジアラビアに次いで第3位である。イランと各国との関係がさらに悪化し、同国から原油を輸入することができなくなれば日本経済は深刻な打撃をこうむる。
世界の金融も深刻な影響を受ける
米国はイランと取引をした第三国も制裁の対象とする「二次的制裁」を復活させる意向を示している。とくに問題なのは金融も深刻な影響を受けることである。米国の制裁が停止されている現在でも、イランとの取引に各国の銀行は過度に慎重になっており、そのため、イラン経済の復興は思ったように進まないと指摘されている。
米国の制裁が復活すれば、イラン経済はもちろん、世界の金融も深刻な影響を受ける。今後は、米ドルに頼らないでユーロ建ての決済を増加しようという動きもあるようだが、それが本当に効果的になるまでには長い期間が必要となろう。このようなことは日本の基本方針から見て重大な問題だ。
しかし、トランプ大統領の決定を正面から批判しにくいので、日本政府としては、「鮮明な立場を表明しない玉虫色の姿勢しかない」と外務省幹部は語った(『朝日新聞』2017年12月8日)そうだ。そんなことでよいのか。日本政府はトランプ大統領の機嫌を損なわないことに重点を置きすぎていないか。
百歩譲って、トランプ大統領の決定に面と向かって批判することは控えるとしても、日本としては、「エルサレムの最終的地位を予断する行為は是認しない」ことを基本方針に従って表明し、中東に対する立場を鮮明にすべきであった。
外交には一貫性が必要である。今はどの国からも決定的な批判・攻撃を受けないよう努めることが賢明なように見えても、それだけでは行き詰まる。今回のトランプ決定に対する対応(の不存在)が日本外交にとって悪しき前例とならないよう切望している。
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