核合意からの離脱を発表してから約1週間後の14日、トランプ大統領はイスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムへ移転した。かねてからその移転を求めていたイスラエルも、米国のユダヤ人も大喜びで、トランプ大統領の娘イバンカ氏とその夫クシュナー氏(ユダヤ教徒)は現地での大使館移転式典に参加し喜びを分かち合った。
しかし、イスラエルと対立関係にあるパレスチナをはじめアラブ諸国は猛烈に反発し、各地で激しい抗議デモが起こった。死傷者も多数出ている。
大使館の移転直後の記者会見で、河野外務大臣は、「非常に残念なことだと思っております。関係国にぜひ、冷静さを保った対応をしていただきたいと思っております。(移転)式典が行われたようでございますが、日本からは出席をいたしませんでしたし、日本政府として大使館をエルサレムに移転する動きはありません」と述べた。
さらに「アメリカ政府は、この和平プロセスに関するパッケージを提示すると聞いておりますので、その提示を待ちたいと思っております」と述べるにとどめた。これでは、形式的には中立かもしれないが、実質的にはひどく米国寄りだ。
昨年末、トランプ大統領が大使館の移転方針を表明した際も日本政府は直接賛否を表さなかった。菅官房長官は12月7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とコメントし、河野外相は同日、「中東和平を巡る状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化しうることを懸念している」と述べただけであった。これは米国寄りにならないように注意していることはわかるが、他人事のような姿勢である。
腰が引けている日本外交
このような日本政府の対応は、あまりにも腰が引けているのではないか。
しかも、日本の中東外交に関する基本方針に沿っていない点でも問題だ。
同方針は、「エルサレムの最終的地位については、将来の二国家(注:イスラエル及びパレスチナのこと。わが国は2012年、パレスチナを国連の非加盟オブザーバー国家とする国連総会決議に賛成票を投じた)の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。わが国としては、イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しないことを強調し、パレスチナ人の住居破壊及び入植活動の継続等、東エルサレムの現状変更の試みについて深い憂慮を表明している」である(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)。
米国の大使館移転は、まさに「エルサレムの最終的地位を予断する行為」である。そうであれば日本政府としては「決して是認しない」はずの問題ではないか。
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