日本の労働力人口の減少率だけを見れば、10年後も20年後も失業率が上昇する可能性は極めて低いと考えられるのですが、企業が生産性を高める流れのなかで、仮に労働力の2割がAIやロボットに代替された場合、東京オリンピックが終了後、2020年代初めには失業率が上昇傾向へと転じ、2020年代後半には5.5~6.0%程度(2017年の失業率2.8%の2倍の水準=過去最悪だった2009年7月の5.7%に匹敵する水準)まで上がり続けることも想定できるというわけです。
ところが、経済学者のなかには、そういった雇用情勢の行く末に目を向けることなく、「人口減少をバネに生産性を高めていけば、日本は経済成長を続けることができる」というピント外れな主張が意外なほど多いのには驚かされます。
新技術が大量の雇用を生む時代は終わった
たしかに、〔国内総生産(GDP)=人口×労働参加率×労働生産性〕、〔経済成長率=人口増加率+労働参加率の上昇率+労働生産性の上昇率〕という式で簡単に表すことができるので、彼らが「労働力人口が減少傾向にあるので、労働生産性を大幅に高めるのが重要だ」という見解を述べるのは理解できます。だからといって、「労働力人口が減っていく社会では、AIやロボットによる労働力の代替はむしろ歓迎されるべきだ」という楽観的な結論に持っていく彼らの感性が、私にはまったく理解できないのです。
経済学者の多くは今でも、技術革新(イノベーション)が経済を活性化させる最大の力になりうると信じています。イノベーションにより生産性が上がれば、賃金が上がると同時に雇用も増えるだろうとも考えています。
たしかに21世紀を迎えるまでは、新しい技術が新しい需要をもたらし、新しい雇用を生み出してきました。その代表例として挙げられるのは、20世紀以降の自動車・航空機・電気におけるイノベーション(第2次産業革命)が莫大な産業集積を必要とし、大量の良質な雇用を生み出したという事実です。これらの産業は巨費を投じて大型の設備を次々とつくっては、高度化に伴い順次更新していく必要があったため、その他の産業にも多くの雇用や恩恵をもたらしました。まさに経済全体の生産性を上げ続けることによって、先進国の賃金は右肩上がりに推移していったというわけです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら