しかし、いま実現を目指しているイノベーションは、これまでとはまったく様相が異なります。21世紀以降のIT、AI、ロボットによるイノベーション(第4次産業革命)は、コストを抑えるための自動化を最大限にまで推し進め、これまでの産業集積や雇用を破壊していくという特性を持っています。
世界の人々の暮らしぶりを変えたアップルやフェイスブックなどのIT企業は、巨大な設備を必要とする伝統的な産業と比べると、莫大な利益を上げて株価も高いにもかかわらず、雇用を生む要素は恐ろしいほど少ないといえます。たとえば、アメリカの株式時価総額でトップクラスの3社である、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフトの3社の時価総額合計は270兆円前後(1ドル=110円で換算、5月上旬時点)と巨額なのに、従業員数は合わせてたったの33万人程度にしかならないのです。
これに対して、日本のトップであるトヨタ自動車の株式時価総額が同じ時点で約25兆円、従業員数が36万人程度あることを考えると、イノベーションによっていくら利益が膨らみ株価が上がったとしても、労働者全体には広く行き渡っていないという実情が浮き彫りになってきます。
アメリカの失業率は10%超に、日本も後追いへ?
経済学者が信じているイノベーションは今や、ほんの一部の企業による寡占の状態を生み出してしまったばかりか、それらの企業が稼ぐ巨額の利益を、ごくわずかの創業者、少数の従業員、目端の利いた株主の3者で分配する仕組みまでつくりあげてしまっています。アメリカでは格差の拡大が史上最悪のレベルにまで進んでいるといわれていますが、この先さらにAIやロボットが爆発的な普及期に突入することとなれば、アメリカの失業率は2017年12月の4.1%から2020年代後半には、ゆうに10%を超えるまでに悪化しているかもしれません。人口が増え続けているアメリカでは、日本より雇用悪化の度合いが強まるのは間違いないでしょう。
私が改めて強調しておきたいのは、AIやロボットによる効率化は世界的に失業者を増加傾向に転じさせたうえで、格差をいっそう助長する主因になる可能性が高いということです。おそらく2020年代のうちには、企業の生産性や株価が今よりも大幅に上がっている一方で、雇用情勢が悪化して不安定な社会が到来することになっているでしょう。
日本は今後も労働力人口が減少し続けるとはいうものの、企業がいっせいに急激な効率化を進めるようなことがあれば、いよいよ日本でも失業や格差が社会問題としてこれまで以上にクローズアップされてくるのかもしれません。アメリカ全土で2011年に起こった「ウォール街を占拠せよ」のような反格差デモが、将来の日本でも起こりうる下地は十分に整ってきているように思われます。そういった意味では、日本はアメリカの悪い部分を追いかけているのではないでしょうか。
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