日本の「障害者雇用政策」は問題が多すぎる 法定雇用率を上昇させるだけでは不十分

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さらに、この制度はもはやインセンティブとしても機能していない。雇用義務化がスタートした直後の1977年調査で障害者雇用率が最も高かったのは従業者数50~99人の中小企業で、最も低かったのは1000人以上の大企業だった。これは、障害者雇用に積極的な中小企業に大企業が協力金を払っていたという図式である。

ところが、現在では両者の立場は完全に入れ替わり、50~99人企業の雇用率1.60%に対して1000人以上企業は2.16%という状況だ。つまり、経営が比較的安定している大企業が調整金を受け取っているのである。

【2020年12月1日10時8分追記】初出時、一部不正確な記述がありましたので、上記のように修正しました。

中小企業で障害者雇用が進まないのは、障害者を雇うよりも納付金を納めたほうが経営上メリットがあると考えているからであり、他方、大企業で雇用が進んだのは調整金をもらうことよりも企業名公表という“罰則”が効力を発揮しているためとの指摘もある。要するに「納付金制度」は“ムチ”にも“アメ”にもなっていないのである。

外注の仕事を障害者に振り分ける企業も

そして第2の問題は、企業における障害者の仕事の中身である。大企業による障害者雇用が大きく進展した背景には「特例子会社」(以下「特例」)と「グループ適用」という制度の存在がある。

前者は、企業が子会社で障害者を雇用した場合には親会社の障害者雇用に含めてもいいというもので、後者はそれが企業グループ全体の障害者雇用としてカウントできるというものだ。

これは、本業で障害者を雇いにくい企業や手っ取り早く法定雇用率をクリアしたい企業にとっては願ってもない制度といえる。すなわち、親会社やグループ内に散在する障害者向けの単純作業を「特例」に集約すれば、それなりの人数の障害者を雇えるからである。

さらに「特例」が雑用を引き受けてくれれば他の社員は本業に集中することができるので一挙両得ともいえる。一方、資本力のある企業のなかには、このやり方とは別に、それまで外注していた清掃やクリーニングといった社員向けサービスを提供する「特例」を設立し、そこで障害者を雇って法定雇用率をクリアしているところもある。

こうした“仕事切り出し型”や“内部取り込み型”の障害者雇用には2つの理由で問題がある。

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