「子なし」の条件で結婚した夫婦は幸せなのか

「僕ら夫婦にとってはこの形がベスト」

「7年くらい前に妻が心の病気になり、一時期は電車に乗ることすら困難になってしまったんです。僕は当時、仕事ばっかりしていて夜も遅かったですし、妻のことをあまり気にかけていなかった。それも原因のひとつだったんじゃないかと反省しました。以降はふたりの時間を増やし、朝と夜はマッサージし合うなどしてスキンシップをはかっています。妻の容体が安定するにつれ、夫婦仲も深まっていきました。倦怠期でも子供が生まれることで新しい絆が生まれたりすると思いますが、僕たちの場合は妻の病気がそのきっかけになった。病気になって良かったとは言い難いですけど、夫婦仲を見つめ直す転機になったと思います」

身軽な人生を、とことん楽しみ抜く

お話を聞いていると、Tさんの「譲る部分」が大きいのではないか? 夫婦の円満は、夫の我慢や優しさのうえに成り立っているのではないか? そんな印象を受ける。しかしTさん、「それはない」と即答。さらに、「子供がいない良さを説明しましょう」と、前のめりになった。

「まず、一番は経済的な不安から解放されること。もし今の仕事が立ち行かなくなっても、夫婦ふたりならバイトでもしてどうにか食べていけるでしょう。そして、だからこそおカネのためじゃなく自分の信念に基づいた仕事ができる。僕は会社を営んでいますが、目先の売上に縛られず、『より良い仕事をして、お客様の笑顔を見たい』という青くさい理想を追求できるわけです。子供がいて学費を稼がないといけない状況だったら、そんな純粋な行動原理だけではとてもやっていけないでしょうね。そもそも、独立もできなかったと思います」

しかし、青くさい信念は顧客の信頼につながり、結果的に業績は順調。懐も温かい。子供がいる同年代に比べ、自分のために使えるおカネは圧倒的に多い。身なりには気を遣い、体型維持のためのキックボクシングのジムにも通っているという。

確かにTさん、清潔感があって若々しく、43歳には見えない。「所帯じみないのも、夫婦円満の秘訣かもしれませんね」。にっこり笑う歯は、芸能人のように白く輝いていた。

他にも、「時間の自由がきく、学校のことを考慮しなくていいので引っ越しもしやすい、子育てにまつわる心配事もない」など、挙げればきりがないようだ。いずれも子なしの“メリット”として想像しやすいことではあるが、Tさんの言葉には当事者ならではの実感がこもっており、説得力がある。

時折、子供がいる人生に思いを馳せつつも、「僕ら夫婦にとってはこの形がベストなんでしょうね」と、現状の幸せをかみしめるTさん。その表情には、身軽な人生を謳歌する充実感がみなぎっていた。

〔取材・文:榎並紀行(やじろべえ)〕

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