「私が起きていたら、母はもう少し長く生きられたかもしれません。すごく責任を感じました。あまりのショックで、また他人と接したくなくなったんです」
しかし、働かなければ食べていけない。ずっと一緒にいてくれた母親はもういないのだ。転職先の病院では、20代30代の「若い子」ばかりが同僚で、彼女たちが積極的に恋愛をしているのに和代さんは少しずつ感化された。自分もパートナーが欲しいと思った。
「最初の頃は先生に毎日のようにしかられて、精神的に参っていたのもあります。家には猫しかいませんでした。どんなにかわいくても猫では会話になりませんよね(笑)。家でしゃべる相手が欲しくなりました」
安心して心を開ける相手
知人の紹介で入会したのは、正人さんと同じく東京世話焼きおばさんの縁結びだ。お見合い5人目で正人さんと出会い、「また会いましょう」と言われたのがうれしかった。2回目に会ったときには、めったに他人には話さない生い立ちについても正人さんに聞いてもらった。
「優しそうで、安心感があって、話しやすかったんです」
正人さんはいい意味で動物的な風貌をしている。会話ものっそりした独特のペースだ。「人間嫌い」の過去を持つ和代さんでも、正人さんには安心して心を開けるのだろう。ちなみに、和代さんは母から引き継いだ雄猫を大切に飼っていて、その猫も受け入れてくれることが結婚の前提条件だった。幸運なことに正人さんと猫は仲良く共存している。
「男の人は嫌いな猫なのですが、なぜか正人さんには懐きました。猫と正人さんのどちらが大事かと言われたら、同率1位としか言えません」
正人さんのほうを振り向くと、「それで大丈夫です」とこだわりのない笑顔を見せる。妻と猫がいる生活が楽しくてならない様子だ。
「20年以上の間、会社から帰ってきたら一人で過ごすことが基本でした。でも、今ではずっと妻がいます。一緒にご飯を食べながら、その日にあったことを話したりします」
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