「ホームレス路上訪問活動」がやっていること 新宿の「おっちゃん」たちとの出会いと思い出
「ちょっと何してんの、困るんだよね」。支援団体の私たちを見つけると、お味噌汁を配る行為を禁止された。ある日から、新宿の小田急前に警備員が立つようになった。こんな声をかけられたのは、私はこれが初めてだった。
スープの会では訪問後に今日の感想を言うことになっている。いつもはおっちゃんたちとこんな話をしました、初めて会ったおっちゃんがいました、という内容が多い。その日、私は、本当に社会全体にホームレス排除の傾向が進んでいることを実感させられた。「本当にこんなことがあるんだ」という感覚だった。それからというもの、スープの会ではホームレス路上訪問のあり方について考え直すようになった。
私は代表世話人の後藤浩二さんと一緒に考える時間を作り、自分が今路上訪問について思っていることを話した。私にはおっちゃんたちとの「もらう・あげる」とはどういうことなのかがわからなくなっていた。路上訪問に行けば、田村さんはお菓子をくれて、金井さんはホームレス支援雑誌をくれる。路上訪問から帰宅し、私の本棚にはまた1つ、コレクションが増える。ある日、「何かこんなにもらっていいのだろうか」と思った。
路上のおっちゃんたちと一緒に時間を過ごすことが増えたからこそ、彼らの生き方もなぜくれるのかも知っている。支援をする側とされる側に極端にわかれるのではなく、個人と個人が出会い、お味噌汁がなくても隣に座って話せる関係を目指してきた。
おっちゃんたちが、孫にプレゼントをあげる感じなのもわかる。やっぱり、プレゼントがなくても話せる普通の関係がいいのではないか。いらないとはっきり伝えて、ものがなくても大丈夫だからと伝えたほうがいいというボランティアもいる。それもわかる。けれど私は「もう十分もらってしまって、もういらない」とは言えなかった。
「お前いつもカメラ持ってるからさ、使えるんじゃない? 俺が持っててもいらないからさ」。金井さんは、ある時どこから持ってきたかわからないが、私にカメラの一脚を手渡した。「そんなものもらえない」と「いやいや、持っていけ」を繰り返していた。結局、私は持って帰ってきてしまった。嬉しかったのもある。しかし、いいんだろうかとも悩んだ。これは「普通の人間関係」なんだろうか。
金井さんに出会ってもう1年あまりになる。初めて会った時からフレンドリーで近所のいいおっちゃんみたいな人だった。スープの会の人も全員知っているぐらい有名。そんな金井さんが、10年前には訪問しても自分のお家から出てこなかったのだと、先輩ボランティアが教えてくれた。
今の彼からは想像もつかない。23年という長い月日をかけてスープの会は活動し、おっちゃんたちとの会話を大事にしてきた。その時間があったから今のおっちゃんたちがいるのだと思う。ホームレスの当事者からボランティアがものを「もらう」という新たな問題が出てくるのも、必然なのではないかと感じる。正解はなく、悩み続けていることが大事なのだ。「いらないからあげるよ」と渡された一脚は私の部屋に置いてある。
以前は悩んでいたプレゼントも、近所のお姉ちゃんからもらったお下がりのようなものだと、今は見ることができている。
お花見
2017年4月。スープの会のメンバーと路上のおっちゃんたちとでお花見をすることになった。場所は田村さんと金井さんが暮らす公園。私も手作りのお菓子を持っていった。夜7時、路上訪問活動が始まり、金井さんと田村さんが住む公園に着いた。
すでにブルーシートに断熱シートが敷かれていた。実は用意してくれたのは金井さんだ。田村さんはチーズケーキを差し入れてくれた。「いやあ時間があればもっと準備できたんだけどな」。金井さんは照れくさそうだった。2週間前から企画を立てており、誰が何を準備するかを決めていたのだという。ダンボールとブルーシートはなるべく使われてないものを探して、集めておいてくれたそうだ。
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