遺伝子的な差異は社会的不平等を生み出すか 教育・所得格差はゲノムで説明できる?
また、より大きな話としては、ヒトの集団遺伝学という考え方/分野によって、経済発展/停滞が予測できるかもしれないとする研究も紹介されていく。
産まれたばかりの分野で確かなことは少ないが、たとえば諸国内部の遺伝子の多様性が所得を高め、成長曲線をよくする「ちょうどよい」水準があることを示した研究もある。ようは遺伝的多様性が高すぎても低すぎてもダメで、その中間でなければいけないというのだが、もしこの確度が高まっていった場合、国家はそうした状態を保つように行動すべきなのか──といった難しい問いかけも生み出すことになる。
遺伝学的情報による社会政策の実現の是非
ゲノムについてのより詳細なデータが集まれば、支援が大きな効果を上げる子どもと上げない子どもの差もわかってくることだろう。その時、たとえば低体重児のうちどの遺伝子を持つ子が追加の医療で利益を得られ、どの子がそうでないのかがわかるのであれば、それを使うべきなのだろうか。
経時的ストレスはすべての親をキレやすくするが、中でも一部の遺伝子変異体を持つ親は経済的ストレスのある時期に、子どもにどなったりたたいたりする傾向を大きく高めることがわかっている。それがあらかじめわかっている時、政策はそこに介入すべきなのだろうか。
これから先、自分の遺伝子が持つ将来的な意味についての情報はより増していくが、その時点で対策がうてない病気について状況が悪いことを知らせるべきなのだろうか(ハンチントン病のリスクがある人々にそれを伝えると、大学を出る率が半分になったという)。遺伝子をめぐる状況は変化が激しく、我々の思考や政策はまだそこに追いついていないのが現状だ。
本書はそうした状況にたった一つの解を与えるものではないけれども、どのような考え方がありえるのかを一通り網羅していってくれる。本書は、”次の世界”を考えるうえで、外せない視点を持った一冊だ。
遺伝子についてはシッダールタ・ムカジーによる名著『遺伝子‐親密なる人類史‐』が翻訳刊行されたばかりなので、合わせて読みたいところ。仲野徹の解説はこちら
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