「愛国心」育成狙う日本政府の危うい教育方針 海外メディアは日本をこう伝えている

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SCAPは軍を解体し、民主主義憲法を導入した。第9条では、戦争の放棄、戦力の不保持を謳っている。SCAPはまた、学校で教育勅語を読むことを禁止し、民主主義的な教育基本法に置き換えた。さらに、新たな教科書検定制度も導入した。

が、極右国家主義者は1953年に朝鮮戦争が休戦した後、失われた地盤を取り戻した。その時までには、米国の占領軍はすでに日本を去っていた。たとえば、文部大臣は教科書に南京虐殺を記載するのを禁じた。1960年代、1970年代、そして1980年代には一連の有名な訴訟が行われ、家永三郎という名のリベラルな歴史学者が教科書検定制度の合憲性を争った。

安倍政権下で着々と進む「愛国心」教育

家永は、文部省は教科書を不正に書き直し、歴史的事実とは異なると思われる公式見解を記載したと異議を唱えた。家永は大部分の裁判で敗訴したが、最終的に最高裁判所は文部省が憲法に違反して教科書を検閲したとの判決を出した。

1989年の昭和天皇の崩御に続き、政府は以前よりも率直に戦争時の日本の過去を認めるようになった。軍人が日記を公開し始めた。「慰安婦」が登場し、その苦痛を訴えた。日本政府は1993年、河野洋平談話を発表し、戦争中に女性を軍の運営する売春宿で強制的に働かせたことを認めた。政治家は補償を約束し、政府は日本の戦争史をより正確に反映させるよう教科書を書き改めた。

国家主義者からは反発が起きる。「新しい歴史教科書をつくる会」は『新しい歴史教科書』という題の愛国心の強い国家主義的歴史教科書を発行。この教科書を授業で使った中学校はわずかだったが、市販の2001年版は幅広く販売され、メディアからも大きな注目を浴びた。

それ以来、教科書では戦争の歴史について不適切な要素が取り除かれ、受け入れられる記述が大幅に増えている。「1997年には、すべての主要な教科書に『慰安婦』が登場している。2017年までに記載のないものはない」とキングストン教授は語っている。

2007年、安倍政権(多くが国家主義団体日本会議に所属している)の最初の任期中、学校の教室で愛国心が教えられるよう教育基本法が改正された。読み、書き、計算の基本的な技能を教わるのと同様に、生徒は国への愛を学ばなければならない。最近採用されたガイドラインでは、公式見解に合った学校教科書を使うことが要求されている。たとえば、問題となっている領土(尖閣諸島など)は、日本名で呼ばれている。そして、この新学期から、道徳が小中学校の通常授業に追加された。

2019年に発表される次の改訂学習指導要領では、さらに国家主義色が強まるだろう。

リチャード・ソロモン 経済ライター、Beacon Reports発行人

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Richard Solomon

英ロンドン・ビジネス・スクール卒。欧州のICT業界向けメディア、ESNメディアグループの発行を手掛けた後、来日。日本社会が抱える問題や日本のリーダーなどに関するメディアBeacon Reportsを発行。The Nikkei Asian ReviewやThe Japan Timesなどにも寄稿している。

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