また、それまでにはなかった衝動的な行動や不注意を起こすようになった。対人ではないものの、縁石に乗り上げてしまい車の事故を起こす。家の鍵をなくして3カ月間部屋の窓から出入りをしたりしたこともあった。母親からは「どうして大学生になってからこんなにちゃんとできなくなっちゃったの」と小言を言われた。
検査の結果、能力のアンバランスが判明
そんな堀内さんを心配し「ADHDじゃないの?」と指摘したのが、大学でいちばん親しい友人だった。それまではADHDという言葉も知らなかったが、ネットや本で調べてみると今の自分に当てはまることが多かった。そこで大学の保険センター内の精神科で発達障害かどうか検討をつけるテストのWAIS-Ⅲを受けたところ、臨床心理士から「能力にアンバランスがある」と言われた。
「たとえば、聴覚から入る情報の短期記憶がほとんどできませんでした。日常生活では、明日何時に何の予定があると言われたら、メモをしないと忘れてしまいます。バイトの出勤日を忘れたこともあります。いちばん顕著に自分ができないと感じたのが、初対面の人が大人数で集まり、円になって行う『名前覚えゲーム』。『私の名前は香織です』と言ったら、隣の人が『香織の隣にいる私は●●です』と言い、3番目の人は『香織の隣にいる人は●●で、その隣にいる私は▲▲です』という風につなげて回していくゲームです。自分はまったくできなくて浮いてしまい、とても嫌な思いをしました。
逆に、一番秀でていたものは抽象的概念を論理的に考えるテストです。たとえば、『“地震”と“津波”という単語を聞いた際、これに共通しているものは何ですか?』と聞かれた際、パッと『自然災害』という答えを出せるとか」(堀内さん)
WAIS-Ⅲは発達障害かどうか診断を下すためのテストではなく、傾向を見るテスト。だから、このテストを行った臨床心理士ははっきりと「発達障害」という診断をくださなかったのではないか、と堀内さんは語る。
しかし、冒頭でも述べたが発達障害は先天的な特性というのが一般的だ。後天的に発達障害の症状が出るケースがあることは今まで当事者を取材してきた中では聞いたことがない。
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