憲法改正論に目を背ける人に伝えたい超基本 変える必要はあるのか、それともないのか

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倉持:また、「自衛隊」の3文字だけ書くだけでは、今までかろうじて政府解釈では憲法上統制されてきたとされる自衛権の範囲を憲法マターから放逐し、法律以下の下位規範のみでの統制に委ねるということになり、わが国独自の自衛権の憲法による統制を変更するという可能性や、憲法上の「自衛隊」概念の定義および位置づけの困難さや、現行2項との関係等安倍首相が払拭するという合憲違憲を含めた解釈上の疑義は払拭するどころか増えるのではないでしょうか。したがって、私は反対です。

自衛隊は「戦力」にあたるのか

:三浦さんはご専門が「政軍関係」(政治と軍と民との関係を取り扱う学問)ということで、文民統制(シビリアンコントロール)に比重を置いた意識で憲法改正をとらえていらっしゃいますね。

三浦 瑠麗(以下、三浦):まず前提として、自衛隊が「軍隊」であることは疑いようのない実態です。憲法9条2項に「戦力は保持しない」「交戦権は認めない」と書いてありますが、日本の防衛費は年間約5兆円規模、自衛隊はいまや世界の五指に入る「軍隊」です。「軍隊としての自衛隊の存在」に自覚的であるために、私は憲法9条2項を削除すべきだと思っています。

自衛隊が軍隊である以上は、(軍に民主的統制を施すための)政府や国会による「シビリアンコントロール」を書き込むべきだという改憲案を私は提案しています。

三浦 瑠麗(みうら るり)/1980年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。国際政治学者(東京大学政策ビジョン研究センター講師)。東京大学農学部卒業、同法学政治学研究科修了(博士<法学>)。著書に『シビリアンの戦争』(岩波書店、2012)、『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書、2015)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書、2017)などがある(撮影:梅谷秀司)

軍とは、武力を集中させた特殊な組織です。歴史的にはクーデターが起きたこともあれば、政治家と対立したこともある。軍は民主的な正統性には従わなければいけない。有事の際には上からの命令に従うことになっていて、戦場でいきなり逃げてはいけない、などの一般市民とは異なる制約が課せられています。自衛隊員を統制するとともに、そのような制約を受ける一人ひとりに名誉も与え、身分を守ってあげる必要があります。軍人とは市民としての権利も一部束縛される特別な存在なのです。保護とコントロールの2つの観点から、国民が軍を保持していることを自覚するため、憲法に何らかの規定が必要だと思っています。

行政府による統制ばかりがシビリアンコントロールとして知られているようですが、これは一面的な理解です。これまで武力行使を想定した法案を作るたびに、国会の事前または事後の承認を入れ込んできましたよね。自衛隊を憲法に明記する際には、立法府によるシビリアンコントロールを憲法事項に格上げすべきです。内閣総理大臣の権限だけ憲法事項だと均衡を欠きますし、国会の権限やその自覚も促されないからです。

「司法・立法・行政」の三権がそれぞれに、自衛隊のあり方やその行動に対して責任をもって監視し、統制すべきだと思います。司法に関しては、一般の刑法になじまない自衛隊の任務を勘案した軍法の体系を新たに作り、「軍事法廷」を設けるべきですが、その際も最高裁を最終結審の場とするのが良いでしょう。この場合は憲法を改正しなくても軍事法廷を作ることは可能です。ただし、刑法の改正なり、法的な改正が必要となってきます。

:自公(自民党と公明党)は、「9条2項を削除しない」というスタンスです。

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