安倍政権がはまった「公文書疑獄」の底なし沼 「天網恢恢疎にして漏らさず」との声も

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朝日、東京両紙の報道のポイントは、柳瀬秘書官(現経済産業審議官)が陳情団に対し「本件は首相案件となっており、内閣府藤原(豊)次長の公式ヒアリングを受けるという形で進めていただきたい」などと発言したとの文書記録の存在(朝日)と、これに先立つ藤原氏(現経済産業省貿易経済協力局審議官)の「要請の内容は首相官邸から聞いている」(東京)などの発言(東京)だ。

これらの発言内容が事実なら、首相の「腹心の友」の加計孝太郎氏が運営する加計学園の獣医学部新設(2018年4月に開学)について、申請前の段階から首相官邸や内閣府が後押していたことになり、「すべては一点の曇りもないプロセスで進んだ」という首相らの国会答弁に疑問符がつくからだ。

県知事「全面的に信頼」、首相秘書官「記憶にない」

この報道について、中村時広愛媛県知事は10日夕に記者会見し、「県職員が作成した備忘録だ」と県の文書であることを公式に認めた。同知事はさらに「職員が文書をいじる必然性はまったくない。全面的に信頼している」と記述の真実性も力説した。他方、柳瀬氏は10日午前にコメントを発表し、「記憶たどっても、愛媛県や今治市の人と会ったことはない」「私が『首相案件』など具体的に発言することはあり得ない」などと否定した。

この陳情会見問題は、昨年夏に野党側が国会の閉会中審査などで繰り返し追及し、参考人として呼ばれた柳瀬氏が、今回同様「会った記憶がない」などと事実関係を認めなかった経緯がある。しかも、首相はその後、国会で「加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは2017年の1月20日」との答弁を繰り返してきた。それより2年近く前に首相秘書官が愛媛県などに対し「首相案件」と発言していたとすれば、首相の答弁が「内閣総辞職に値する虚偽答弁」(民進党)にもなりかねないだけに、首相は11日の衆院予算委員会集中審議で「柳瀬秘書官のコメントを信じる」と繰り返した。

ただ、首相も含め政府側が一様に「コメントを控える」とした愛媛県の文書は、官邸に派遣された県職員が「報告のために忘れないように書いたもの」(中村知事)とされるだけに、内容の信ぴょう性は高い。このため、野党側はすぐさま、柳瀬、藤原氏や当該県職員らの証人喚問を要求した。柳瀬、藤原両氏の証人喚問については与党側にも容認論があり、今後の与野党折衝次第では柳瀬氏らの国会招致が実現する公算が強まっている。

柳瀬氏は2008年から2009年にかけて現在の麻生太郎財務相が首相時代に首相秘書官を務め、2012年12月の第2次安倍内閣発足時に再び首相秘書官に就任、2015年8月に経済産業省経済産業政策局長に転じた。柳瀬氏は通商政策の専門家で早くから次官候補とされた超エリートで、秘書官退任後も首相との親密な関係を維持している。このため、与党内では仮に証人喚問が決まっても「記憶にない」の一点張りで佐川宣寿前国税庁長官と同様に事実上の証言拒否に徹するとの見方が広がる。

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