夫である優一さん(仮名)は人見知りを自認しているが、光代さんはそのようには見なかった。優一さんは自動車関連企業で設計の仕事をしており、顧客との打ち合わせなどで鍛えられたコミュニケーション能力があるようだ。ただし、若い頃に女性に告白して返事すらもらえず、共通のグループとも疎遠になってしまった経験などがあり、「誰かに告白をして玉砕して傷つくのが嫌」という気持ちが強かった。
ともに奥手の2人が距離を縮めることができたのは、優一さんの特技である料理だった。出会って1年後に、ボードゲーム仲間でお花見をすることになり、優一さんは揚げ物やライスボールを作って持ってきたのだ。
「後から聞いたところによると、私がいちばんおいしそうに食べていたそうです(笑)。私が持っていった料理も彼がよく食べてくれていてうれしかったのを覚えています」
余談になるが、晩婚さん取材をしていると「食の好み」の一致を強調する人が少なくない。結婚とは生活であり、同じ食卓を囲むことである。食事の価値観が近い相手のほうが喜びを共有しやすい。小さなケンカをしても、おいしいものを一緒に食べているうちに仲直りすることもある。
「バースデーケーキ」を手作りするという賭け
お花見の翌月、優一さんは勝負に出る。再びボードゲームの集まりがある日は、光代さんの誕生日直後だと知ったのだ。バースデーケーキを手作りして持っていくことに決めた。「ドン引きされたらどうしよう」という不安もよぎったが、光代さんの優しいキャラクターならば笑ってもらえるはずだと覚悟を決めた。
「好きな人には自分から告白する」気概を持つ光代さんが、草食男子からのアプローチを見逃すはずはない。すかさず優一さんにお礼のメッセージを送り、「お返しをしたいから一緒に買い物に行きませんか?」と誘った。
買い物のついでに鎌倉にも行くことになり、丸1日を2人きりで過ごした。趣味がほぼ同じで、食事の好みも似ていることはすでにわかっている。光代さんがもう1つだけ確認したかったのは、家族に対する考え方だ。
「私の家族は現代では珍しいぐらい絆が強いんです。お盆だけでなく、春と秋のお彼岸にもお墓参りを欠かしません。きょうだい仲もいいし、両親のことは尊敬しています。そんな家族とのつながりを『重い』と思われたらしんどいです」
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