窮地のフェイスブック、CEOが背負った十字架 公聴会では議員100人が10時間にわたり詰問

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「フェイスブックとは何なのか」。議員から頻出した質問だ。広告会社なのか、出版社なのか、通信会社なのか。ザッカーバーグ氏は、「エンジニアがコードを書き、サービスを作るテクノロジー企業だ」と応じた。一方で、「ユーザーがフェイスブックで共有するコンテンツについて、われわれは責任を持つのかと問われれば、答えはイエスだ」とも認めた。

またザッカーバーグ氏は独占への懸念について、「フェイスブックがコミュニケーションにおける独占的な立場だとは思わない」とした。しかし、「フェイスブックを代替できる同様のサービスはほかにあるのか」などと、議員にフェイスブックの具体的な競合相手について問われた際、ザッカーバーグ氏が答えに窮する場面もあった。

マーク・ザッカーバーグCEOはフェイスブックを「テクノロジー企業」だと表現した(写真:Facebook)

皮肉にもフェイスブックが生み出したのは、シリコンバレーと考え方が真逆のトランプ大統領だった。フェイクニュースや個人情報の不正利用の結果がトランプ氏の当選だったという事実を目の当たりにしたカリフォルニアの人々は、体が重たくなるような脱力感に襲われた。これが何より、ザッカーバーグ氏の深い後悔の理由でもある。

広告と引き換えの”無料サービス”の行方

今後、フェイスブックやグーグルのような、ユーザーの情報や行動を広告価値に変えることで無料のサービスを実現している企業には、何らかの規制がかけられる可能性がある。こうした企業の成長速度に影響は出るだろうし、巨大プラットホームを広告やマーケティングの場として活用してきた企業にとっては、顧客との接点を考えるうえで、大きな戦略の転換を迫られる。

一方、フェイスブックやグーグルとの違いを強調して予防線を張ってきたのが、アップルだ。ティム・クックCEOは、「ユーザーの個人情報を活用したビジネスには手を出さない」と強調。同社の収益の大半は、iPhoneやiPadといったハードウエアが稼いでいる。直近3月27日には教育向けの製品発表会をシリコンバレーではなくシカゴで開催し、ほかのプラットホーム企業との違いを強調した。

しかしこうした”分裂”がシリコンバレーの巨大企業の間で広がれば、米国社会におけるテクノロジー企業の存在感の低下につながる可能性がある。フェイスブックの自助努力だけで事態が改善するかは未知数だ。シリコンバレーの巨人たちは手を取り合い、何があるべき姿なのか、どんな規制をすべきなのかを議論し、ワシントンより早く答えを出すべきだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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