米国の関税戦略に「日本封じ込め」の意図あり トランプに対抗し、再び「富国強兵」を目指せ

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次に、「二重の封じ込め」の「中国・北朝鮮封じ込め」の側面に着目するならば、日本は、確かに日米同盟のおかげで、中国・北朝鮮という地政学的脅威に対抗している。しかし、このように自国の防衛を米国に依存している状態にありながら、米国の要求をはねのけるなどという選択肢は、日本にはないに等しい。つまり、米国にとって日本は、EUやカナダとは異なり、報復措置を怖れる必要のない相手なのだ。

米国が、この日米同盟の「二重の封じ込め」の構造を利用して、日本にさまざまな経済上の要求をのませる。これは、何も今になって始まったことではなく、これまでもそうであった。「それは、トランプ政権の下でさらに決定的なものとなろう。これは構造的な問題であって、日米首脳が信頼関係を構築すれば回避できるといった類のものではない」と、筆者はトランプ政権発足直後に警告を発しておいた(日米首脳の蜜月こそが日本経済の「足かせ」だ)。

米国の要求を受け入れつつ、日本にも利益となる方法

さらに深刻な事態も予想される。

もし米中貿易戦争がエスカレートし、巨大な中国市場へのアクセスを制限された場合、米国は東アジアへの関心を大きく低下させるであろう。そのとき、米国の東アジアからの撤退がいよいよ現実味を帯びてくる。それを怖れる日本は、今後、ますます米国の要求を拒否できなくなるであろう。反対に、中国が米国の要求に応じた場合には、米国はその標的を日本市場に絞ることとなる。

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さて、以上のような全体構造を直視するならば、今回のトランプの関税措置に対し、わが国が打てる手はほとんどないかにみえる。

しかし、1つだけ、米国の要求を受け入れつつ、日本にとっても大きな利益となる方法がある。

それは、米国の貿易黒字削減要求に対して、内需拡大によって応じることだ。内需拡大による経済成長は、米国からの輸入を増やすというだけでなく、日本国民を豊かにする上でそもそも必要なことだ。

内需拡大の実現には、積極的な財政出動が不可欠であるが、日本が財政赤字を懸念する必要がないことは、すでに証明しておいた(「財政赤字の拡大」は政府が今やるべきことか)。

さらに、拡大した財政支出の一部を防衛力の強化に向けるならば、なお賢明である。

明治維新からちょうど150年の今年、再び「富国強兵」を掲げるべき、いや掲げざるをえない時代が来た。今回の米国による関税措置は、そのシグナルとして認識しなければならない。自由貿易、日米同盟、財政再建を巡るこれまでのドグマにとらわれていては、この富国強兵の時代を乗り切ることはできないのだ。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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