「つぶすからな」産経新聞の沖縄での取材姿勢 記者は百田尚樹氏講演会でも罵倒されていた
真っすぐな視線を向けられ、答えに窮した。取材相手の女性(19)がふいに聞いてきた。「米軍が良いことをした時には何で書かないんですか」。良いことをしたのかどうか、そこが分からないからです。出かかった言葉はしかし、のみ込むしかなかった。
「反米」の2紙は黙殺したというデマが広がっていた
昨年12月、沖縄県の高速道路で起きた多重事故。米兵が自らを犠牲にして日本人を救った、その英雄的行為を「反米」の沖縄タイムスと琉球新報の2紙は黙殺した――というデマがものすごい勢いで広がっていた。
産経新聞ウェブ版の記事が起爆剤になった。「米軍の善行には知らぬ存ぜぬ」「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」。激しい言葉がネットの波に乗った。
沖縄タイムスの同僚は早い段階で、記事を書いた産経の高木桂一・那覇支局長(当時)が県警に取材していなかった事実を把握していた。事故は警察。火事は消防。新聞記者なら、1年生でもまずは聞く。電話をたった一本かけるだけで、米兵による日本人救助は確認できない、という事実が分かった。新聞社として、およそ考えられない欠陥取材。沖縄2紙を批判するために、あえて事実関係を無視したのではないか、とさえ私たちは疑った。
反論するか。ただ、米兵が意識不明に陥っていた。ことさら救助を否定することで、ただでさえ大変な状況にあるご本人や家族を傷つけるのではないか、と二の足を踏んだ。産経が唯一の柱にしていた米軍も最終的に救助を否定するに至り、琉球新報、次いで沖縄タイムスが経緯を報道。産経は謝罪と記事の削除、高木氏の更迭など関係者の処分に追い込まれた。
2紙の編集局長は「率直にわびた姿勢には敬意を表する」などとコメント、大人の対応を見せた。だが、産経が誤りを認めるまでの2カ月間、2紙はネットで、会社への電話で、浴びせられる罵声に耐え続けてきた。おとしめられた評価はとても回復できない。私が会った女性の、不可解そうな表情が忘れられない。
高木氏はこれまでもウェブ版で「沖縄2紙が報じないニュース」というシリーズ記事を書き、2紙を厳しく批判してきた。私自身を対象にした記事もあり、今もそのまま載っている。