日本人が英語の成績が良くても話せないワケ 今の教育では英語は身に付けられない

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アメリカ人と馬について論議した中学生は人に伝えたいものを持っていました。一方、高校の授業で教材としてシェイクスピアを読んだ女子大生は、その作品を好きにも嫌いにもなりませんでした。単に単語や文法をテキスト上で学ぶだけでは、「使える英語」は身に付かないのです。感情を揺さぶるような何かがあり、それを伝えたい相手がいるから使い、結果として言葉が身に付く。そのような習得方法が、特に子どもの場合には必要です。

4歳の男の子に、英語絵本に登場する幼い主人公について次のように聞いてみたことがあります。「(主人公が)"I'm so lonely, so lonely.”と泣いているね。それに彼の体がとても汚れているのはどうしてだろう?」。すると、男の子は「ママがいないんだよ」と答えたことがありました。これこそ彼が主人公に心を寄せ、彼の気持ちが動いている証拠です。彼はlonelyという言葉を心に刻んだことでしょう。

英語を話せるようになる環境作りが急務

感情を伴った英語に出会い、それを実際に使用して自己表現をしていく。このように英語を学んでいくと、将来、自分の思考や感情を伴った英語を使用して話すことができるようになります。冒頭の大学の先生が希望するように、パーティで自由に会話を楽しみ、人間関係を築くような英語を身に付けることができるのです。

先日、川崎市の小学6年生を子どもにもつお母さんが、授業参観で英語活動を見た後に「ALT(Assistant Language Teacher)が『Eye Contact、Use Gesture、Big Smileが大切』と強調するので子どもは一生懸命やっていましたが、言葉(英語)や表情に気持ちがこもっていないのがよくわかる」と話していました。このお母さんは英語を話せるので、授業参観で見た英語活動には懐疑的でした。

日本で教鞭を取る外国人教師は「日本の学生は話さない」とよく話します。「大人しく聞いているのがいい生徒」とされる文化であり、また間違いを犯すことを恐れるあまり、日本の学生が授業であまり発言しないのは事実です。しかし、英語を話せるようになるにはこの環境を改める必要があります。そして、英語に限らず、ほかの授業でも自分の意見を自由に発言でき、活発に議論できる環境を作るべきではないでしょうか。

国語や英語の授業では、文学作品を題材にすることが多くありますが、文学の解釈は読み手によってさまざまです。正解がひとつではない問いに対して、各々の考えを自由闊達に述べ、対話を通して学ぶことがこれからは重要になってきます。

そのような子ども1人ひとりの思考や感情に沿う、多様性を認める学び方からこそ、「話せる英語」が育まれることは間違いないでしょう。

木原 竜平 ラボ教育センター 教育事業局長

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きはら りゅうへい / Ryuhei Kihara

1987年、筑波大学卒業、ラボ教育センター入社。東京、名古屋、大阪にて営業、指導者研修を担当。2002年より東京本社にて、外国語習得、言語発達、異文化理解教育について専門家を交えての研究に携わる。日本発達心理学会会員。日本子育て学会会員。ラボ・パーティは1966年「ことばがこどもの未来をつくる」をスローガンに発足し、2016年に50周年を迎えた子ども英語教育のパイオニア的存在。
 

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