長野県立大学、「1年生は全員寮生活」のワケ 阿部守一・長野県知事インタビュー<後編>

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中原:その他の視点では、私だったら、今ある高専の定員を大幅に増員して企業誘致とセットにしたいと考えますが、それは国が管轄しているところなので、やはり地方自治体では難しいのでしょうか。高専の生徒への企業の引き合いは相当に強いと思うのですが。

阿部:おっしゃるとおりです。長野高専は非常に就職率が高くて、いつも企業の皆さんからは引き合いが強いのですよ。これは私たちもよく考えなければならないテーマですが、先ほど申し上げたように、高等教育は国・文部科学省の直営であるという感覚があって、そもそも信州大学とか国立高専のような国が経営しているところは県があまりコミットしづらい、かかわりづらいという感覚がありました。

長野はモノづくり技術に加え経営者も育成する

阿部:しかし今では大学が独立行政法人になって国寄りのスタンスが変わってきているので、私はもっと踏み込んだ連携をしていく必要があるだろうと思っています。その意味では、高専の皆さんとも連携を強化していかなければならないですし、今まさにそういった転換期に来ているのかもしれないですね。

高専と同じく、技術系の人材に対する需要は、特に長野県はモノづくり産業が盛んなので非常に旺盛です。ですから、今までは県内では上田地域にしかなかった工科短期大学校を上伊那地域にも新しく設置しました。

また、長野県では農業大学校と林業大学校を持っているのですが、農業大学校については、これまでどおり農業技術の教育をするだけではなく、実践経営者コースをつくって経営もしっかりと学ばせていくような形にしました。林業大学校については、国が専門職大学を新しい学びの場として打ち出したばかりなので、国の動きを見ながら、より良い人材育成機関として発展していくように検討していきたいと思っています。

中原:長野県の取り組みは十分に地方のトップランナーとしての役割を果たしていると思います。いずれにしても他の地方自治体にも、おのおのの地方の強みや特色をデータの形で見える化したうえで、マーケティングに力を入れながら地方大学の振興策に取り組んでもらいたいですね。

地方大学の底上げという問題はそれだけを考えていては不十分であって、良質な雇用の確保という問題と併せて考えるようにしなければ中身の薄いものとなってしまいます。ところが、ほぼすべての自治体がこれらを別々の問題としてとらえているため、対策を講じても効果は出ない結末となっているというわけですよね。

私が強く願うのは、地方自治体が自らの地域の特色や強みを分析したうえで、大企業の誘致と地方大学の振興を組み合わせた施策を進めてもらいたいということです。やはり、相性の良い施策を組み合わせてこそ、相応の効果を発揮することが期待できるからです。地方に良質な雇用が生まれれば、若者が地方に残って働くという選択肢も広がります。それが地方における少子化の緩和や活性化にもつながっていくし、ひいては日本全体の人口減少の加速を止めることにもつながっていくわけです。

次ページ首長のリーダーシップこそが、「強い地方」を切り開く
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