長野県立大学、「1年生は全員寮生活」のワケ 阿部守一・長野県知事インタビュー<後編>

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阿部:私も基本的に同じ問題意識を持っており、長野県に魅力ある大学を創りたいとずっと思っていました。実は、今年4月に新しく長野県立大学を開学します。「人口が減少する社会のなかで、どうして今さら大学を創る必要があるのか?」という議論は、当初からかなりありました。

私がまず何とかしたいのは、長野県はかつて教育県といわれていた県なのですが、今では県内大学の収容力が、全国最低レベルといえるくらい少ないということです。本当は県内に大学があれば県内に残ってもいいと思っている学生も、県内に大学がないために多くが大都市圏に出ていってしまうので、大学の数が少ないというのは大きな問題だと思っています。

それと同時に、これからの時代に必要とされる、グローバルな視点を持って地域にイノベーションを起こすことのできる人材、地域のリーダーとなれる人材を育成する大学を設立しようということで、長野県立大学の創立に取り組んできました。おっしゃるように、地域が発展するためには、地方からイノベーションを起こしていく社会にしなければいけません。そういったことを考えると、知の拠点としての大学と地域の経済発展というのは、これまでとは比較にならないほど密接にかかわっていくだろうと思っています。

大学の卒業要件厳格化が長野の振興につながる

中原:さらに地方大学の振興を促進するためには、卒業の要件を厳しくする必要がありますね。誰でも大学に進学できる環境を整えながら、全員が必ずしも卒業できないシステムに改めていくことが求められているのです。大学が卒業生に対して専門職にふさわしい知識や技能、思考力を担保できなければ、地方大学の振興には程遠いし、ひいては地方経済の発展に寄与することなど到底できないからです。

東京の有名大学に先駆けて、地方の大学からこういった取り組みを始める必要があるのではないでしょうか。現に、秋田県の国際教養大学は卒業が難しいカリキュラムで知られ、勉学に一生懸命に励まないと卒業ができません。その結果、大企業が相次いで秋田までわざわざ採用活動に訪れているというのです。先見性のある阿部知事が大学を新設するということは、当然のことながら、卒業が難しいという方針は盛り込まれているわけですよね。

阿部:そのとおりです。私も今の大学で変えなければいけないと思っているのは、学生が入るまでは一生懸命勉強するけれど、その後は何となく卒業ができてしまうことです。

ですから、私は大学を創る手本として国際教養大学にも学びに行きましたし、国際教養大学の中嶋嶺雄・前理事長兼学長は松本市のご出身なので、私の主観的な見解かもしれませんが、国際教養大学は何となく信州の雰囲気があるような気がしています。

中嶋先生は長野県という教育県で育たれた方ですから、そういう思いを貫徹しようという意思が強くて、あのような大学ができたのだと思います。残念ながらお亡くなりになられましたが、長野県立大学を開学するにあたり、最初の頃はずいぶんアドバイスをいただいたりしていましたね。

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