阿部:大学の組織をつくるうえではやはり「人」が大事なので、理事長予定者にはイノベーティブな方に就任いただきたいという考えから、ソニーの社長をやっていた安藤国威さんにお受けいただいていますし、学長予定者には学者一族の金田一真澄先生にお受けいただいて、安藤・金田一体制で長野県立大学の設立を進めてきています。
長野県立大学では1年生は全員、寮に入ってもらいます。近所に住んでいても寮に入らなければいけないのかという疑問の声も聞かれますが、学習する習慣をしっかりと持続させるためには、1年生にはきっちりと集団生活を学ばせようと考えています。それから2年生は短期ではありますが、全員を海外に行かせようと思っています。そういった理念をずっと貫徹していきたいので、今年入学する1期生には是非良い模範となってもらいたいと期待しています。
地方大学の振興の話は長野県立大学だけではなくて、県としては新たに「信州高等教育支援センター」をつくって、県内の各大学との連携をこれまで以上に強化しています。
たとえば、松本大学が教育学部を新設する時は県として応援させていただきましたし、諏訪東京理科大学を公立化していこうという計画も県として相当バックアップをさせていただいています。県内の国立大学、私立大学、公立大学は、緊密に連携をとりながら共に発展する体制を築きつつあります。どちらかというと大学は国・文部科学省の直営というような感覚が全国的にあるなかで、県がかなり踏み込んで高等教育機関と連携しているというのは、長野県の大きな特色ではないかと思っています。
優秀な学生を育てても、地方には「良い就職先」が少ない
中原:長野県の取り組みはすばらしいですね。秋田県の国際教養大学のケースで残念に思うのは、地元に良い就職先がないために、卒業生がそのまま秋田県の企業に就職するケースは皆無に等しく、卒業生の圧倒的多数が東京の企業に就職するという状況になってしまっていることです。地元にあれほど優秀な大学があるのに、実にもったいないと思います。
しかも、卒業生はみな英語がペラペラでグローバルな視点を持っているにもかかわらず、海外の企業に就職するケースはほとんどないと聞いています。それはなぜかというと、海外に留学して日本との違いを認識して、やはり日本が衣食住も治安もいいということを理解しているわけです。地元に能力を活かせる企業があれば、そのまま就職してくれる可能性が高いわけですね。
身近な事例をひとつ挙げると、私の地元に筑波大学という優秀な大学があります。勉学に励む優秀な学生が多いため、大企業の採用部門の評価が非常に高いことでも有名です。ところが、せっかく優秀な大学があっても、やはり卒業生が地元に残って就職するというケースは極めてまれなのです。卒業生の大多数が東京の企業に就職するという状況に甘んじているのです。秋田の国際教養大学と同じく、せっかく地元に優秀な大学があっても、地元に良質な雇用がなければ意味をなさなくなるという典型例であるといえるでしょう。
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