長野県がガチで取り組む「出生率1.84作戦」 阿部守一・長野県知事インタビュー<前編>

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中原:私は少子化の大きな流れを止めるためには、「大企業の本社機能の地方への分散」しかないだろうと考えています。本来は、大企業の本社そのものが地方へ移転することが理想ですが、落としどころとして地方への分散が現実的であるとの妥協点を見いだしているのです。大企業が地方で良質な雇用をつくる努力をすれば、それだけで効果的な少子化対策になるのに加えて、若者の地方からの流出が緩和されることも十分に期待できるわけです。

2011年にコマツが本社機能の地方への分散を進めていることを初めて知ったとき、少子化を緩和すると同時に地方の衰退を止めるには、コマツの取り組みを多くの大企業が見習う必要があると直感しました。現に、コマツの本社機能の地方への分散は、少子化対策としてはっきりとした数字を残しています。同社の30歳以上の女性社員のデータを取ると、東京本社の結婚率が50%であるのに対して石川県のオフィスが80%、結婚した女性社員の子どもの数が東京は0.9人であるのに対して石川は1.9人と、掛け合わせると子どもの数に3.4倍もの開きが出ているのです(東京0.5×0.9=0.45:石川0.8×1.9=1.52 ⇒ 1.52÷0.45=3.38)。石川は物価が東京よりもずっと安いし、子育てもしやすい環境にあるので、これは当然の結果といえるでしょう。

とりわけ私が大企業の経営者と話をするたびに実感しているのが、東京圏の大企業に勤める出産適齢期の20代~30代の女性の結婚率の著しい低さです。企業によっては50%を割り込むところも珍しくはなく、大企業に勤める女性が東京圏全体の結婚率、ひいては出生率を大幅に引き下げている可能性が高いのです。結婚率が50%とすれば、出生率を2.0にするには子どもを4人産まなければならない計算になります。このような大企業に働く女性の状況を改善しないかぎり、出生率を大幅に引き上げるなんてとても無理な話なのです。

その点、長野県が行っている大企業の本社機能や工場の誘致は他県よりも進んでいると伺っていますが、どんな仕組みになっているのでしょうか。

23区から本社機能移転なら、法人事業税3年間95%減額

阿部:確かに、日本ほど首都に一極集中している国というのは世界に例がないわけですが、その弊害が少子化という問題として日本の将来をとても危うくしていると思っています。そういった意味では、長野県でも大企業の本社機能の移転について強力に支援する制度を設けています。本社機能には管理部門のほか、もちろん研究開発拠点なども含めています。

国が法人税の優遇制度をつくっていますが、長野県では東京23区から本社機能を移転した企業に対して、県税である法人事業税と不動産取得税について全国でトップレベルの減税制度を用意しています。とくに法人事業税については3年間にわたって95%を減額する措置を設けています。さらには、市町村にもご協力いただいて、固定資産税の減額措置も設けています。

国の法人税の優遇制度は大規模な移転しか対象にならないのですけれども、長野県は小規模な移転に対しても県独自の助成制度を創設し、大企業の場合は9人以下、中小企業の場合は4人以下の移転でも助成の対象にしていまして、長野県を選んでいただける企業も少しずつ増えてきているという状況にあります。

次ページ長野県の強みを生かした独自の誘致戦略とは?
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