中原:政府は出生率を1.8程度にまで回復させることを目標に掲げているのですが、残念なことに、政府がこの目標値を達成したとしても、出生数は意外なほどに増えませんからね。たしかに、30年後、40年後に少子化をピタリと止められるような「魔法の杖」はありません。とはいっても、たとえば出生率を1.6や1.7に上昇させたまま維持することができれば、将来の成年人口は数百万人単位で上振れさせることができます。現時点で新生児が年70万人台になるといった推計に対して、今から出生率を上げることで80万人~90万人台を維持することは十分に可能であると思います。
さらには、30年後、40年後の年齢別の人口構成比を変えることもできます。状況が劇的に改善するわけではありませんが、悪くなる度合いをできるだけ緩和する方法を考える必要があるわけです。日本社会は「少子化がさらなる少子化をもたらす悪循環」に陥っていますが、このまま何もせずに放置していたら、もっとひどいことになってしまいます。今からでも、少子化のスピードを少しでも緩めることはできるはずなので、一つひとつできることからやっていくしかないのです。何しろ、少子化のスパイラルを止めなければ、日本には極めて悲惨な未来しか待っていないのですから。
長野県の「出生率1.84作戦」とは?
阿部:おっしゃるとおりです。ただ座して成り行きを見守るのではなく、積極的に少子化に歯止めをかけていく取り組みをしていくことが非常に重要であると考えています。そういう観点から、結婚を希望する方は結婚してもらい、出産したい方には出産してもらえるようにすれば、出生率は1.84までは上がるだろうという目標を設定して、いろいろな試みを進めているところです。
まず、入り口である結婚支援ですが、市町村や民間団体、企業などと連携して「長野県婚活支援センター」を設置し、「オール信州」で婚姻件数を増加させる拠点としています。そして若者の婚活を応援する「婚活サポーター」として多くの県民のみなさまにボランティアで登録をしていただき、「今ではこんなことも行政がやるのか」というところまで踏み込んだ取り組みをしています。また、結婚希望者のプロフィールをデータとしてまとめ、居住地域・身長・体重・学歴・年収・親との同居など、自分の希望する結婚条件に合う異性を検索できるマッチングシステムも導入しています。
次に、子育て支援策ですが、子育て家庭の経済的負担をなるべく和らげるという目的で、医療費の助成対象は各都道府県と比較してもかなり充実させています。県では中学校卒業まで所得制限なしで医療費の支援をしていますし、市町村によっては高校卒業まで対象としています。
それから、これは少し角度が違うのですが、メディアを通じた報道では子育てについてネガティブな情報のほうが出てしまう傾向があります。そこで13県の若手知事で将来世代を応援するために結成した「日本創生のための将来世代応援知事同盟」において、子育ての楽しさとか家族の良さとかをもっとしっかり情報発信していったほうがいいと考え、長野県が提案して11月19日を「いい育児の日」と定め、記念日協会にも登録して、2017年からスタートさせています。
長野県の出生率は1.59(国全体は1.44)まで、わずかずつではあるものの上がってきていますが、社会全体で子育てを応援する環境づくりが重要ですので、これからはもっと上げていかなければならないと頑張っているところです。
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