中原:大企業が自らの利益や効率性だけを考えていたら、本社機能の地方移転など、とても決断できません。だから、国や地方自治体が何としても少子化を食い止めようという気概を持って、地方移転にチャレンジする大企業を大胆に支援する、優遇税制などを講じなければ、大企業が地方に興味を示すことはなく、絶対に少子化の問題は解決に向かうことはないと思っています。
その一方で、地方自治体が単独で大企業の本社機能の誘致に熱心に取り組んでいく必要もあると考えています。ただし、地方自治体によって各々の強みや特色があるので、相乗効果が発揮できる大企業と地方自治体が協力するのであれば、大企業は何も創業地にこだわる必然性はないと思っています。長野県はどのような強みや特色を生かして、企業の本社機能の誘致に取り組んでいるのでしょうか。
企業の研究所立地は「全国5位」、移転企業の評判も上々
阿部:長野県の特色は自然が豊かだということです。その特色を生かして、とりわけ企業の研究所の誘致を積極的に進めています。研究者のみなさんがクリアな頭で試験研究に取り組んでもらえる環境は、大都会と比べると格段に優れていると思っています。そのようなわけで、過去10年間の研究所の立地件数は全国で5番目に多い状況であります。
たとえば、日本無線は東京の三鷹市に技術開発拠点があったのですが2014年に長野市に移転、従業員約900人のうち9割に東京から移住していただきました。同社の方々とお話をしてみると、当初は「人口減少社会のなかで長野に移転して、将来的に人材を確保できるのか」「従業員が長野の生活に満足できるのか」といった不安があったとのことですが、今ではそうした不安は払しょくされ、従業員のみなさんも生活環境が良くなって喜んでいらっしゃる方が多いということです。そういった意味では、今回のケースは良いモデルになるのではないかと思っています。
またLEDで有名な日亜化学工業にも下諏訪町に研究開発拠点をつくっていただきました。同社が長野県を選んだ理由は「自然環境が優れていて、研究員たちも環境としては望ましいのではないか」ということでした。そのうえ、長野県の諏訪地域は多くのモノづくり企業が集積しているので、技術連携をしやすいということで選んでいただいたという状況です。長野県は自然環境が豊かな地域であると同時に、東京や大都市圏にも比較的近いという地理的優位性があるので、そういったメリットを生かして、研究開発型の企業だけでなく多くの企業に是非目を向けていただけるように努力していきたいと思っています。
中原:実際に、本社機能の地方移転が少子化対策として本質的対策であることは、国も多くの自治体もわかってきているはずなのですが、なぜか国や自治体の動きは思いのほか鈍いように思っています。その意味では、長野県には少子化対策のトップランナーとして頑張っていただいて、日本の企業経営者に対して地方に目を向けた経営や雇用を考えるきっかけを与えてほしいと期待しています。
後編に続く。後編は3月31日に配信予定です。
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