石巻の缶詰メーカー、どん底からの超復活劇 震災支援の縁を活かし過去最高業績上げる
被災企業が、なぜここまで急回復したのか。震災翌年から同社を取材する筆者は、しゃにむに動くうちに新たな出会いが生まれ “販促”につながった――と考えている。
被災直後、副社長の隆之氏は、関係者に働きかけて「一般社団法人三陸海岸再生プロジェクト」を設立して代表理事に就任。被災した漁業関係者の支援とともに、漁業の未来を切り拓く活動を始めた。2013年に退任したが、一連の活動も人脈につながった。
実は「さばのゆ」を経営する須田泰成氏の本職は、放送作家で脚本家だ。各種のプロデュース業務も行い、芸能界にも伝手がある。須田氏の支援で実現した取り組みも多い。
ただし、話題性に安易に乗らなかったのも同社の社風だろう。皮肉にも震災によって知名度は上がったが、モノづくりに注力する姿勢は崩さず、“縁”を大切にする。震災前にアイデアマンの隆之氏が、缶の裏側に「出会いに感謝します」と記したのはその象徴だ。
「品質には自信があったので、『これはどこの缶詰だ』と缶をひっくり返したときに、その言葉を読まれることを期待した。それが偶然、震災後に活きました」(隆之氏)
工場再建の借入金返済も残る
まもなく震災から7年。被災企業の中には、今なお業績が厳しい会社も多い。水産庁が2016年11月から2017年1月に行ったアンケート調査では、5県(青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県)全体で売上が8割以上回復した水産加工業は47%にとどまった。そんな中で、震災前売上高の126%に伸長した木の屋の業績は一頭地を抜く。
だが、同社も気が抜けない。再建した2工場に約44億円を投資し、国の助成金を除いた15億円は自己負担だ。借入金の安定返済のために、売上高22億円をめざすという。
「売らんかなで業績を追い求めるつもりはありません。震災前からのご縁、震災後のご縁を大切にして、“魚屋”として地道に進んでいきたいと思います」(木村氏)
2012年初め、ガレキだらけの本社工場跡を案内してくれた木村氏の無念そうな苦笑いは、最近は笑顔に変わった。この笑顔が続くことを祈りつつ、同社の活動を見守りたい。
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