チャーチルを「名宰相」たらしめた究極の選択 アカデミー賞受賞作でも描かれた緊迫の1日

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近年の説によれば、チャーチルはこのとき疲労の兆しを見せていた。65歳の首相は、ブランデーやリキュールで英気を養いつつ夜明けまで働き、省庁に電話をかけて書類や情報を求め、大部分の正気な男性たちが妻とベッドに入っている時間に会議を招集して、スタッフや将軍たちの不評を買っていた。

チャーチルはビクトリア朝兼エドワード朝風の奇妙な装いで、黒いチョッキ、金時計の鎖、黒と灰色の縞模様のスラックスを着けていた。チャーチルは青白くて不健康そうだったといわれているが、それも事実だろう。葉巻、ひざの上にこぼれた灰、一文字に結ばれた口から垂れているよだれ、も追加しておこう。

ハリファックス提案への拒否

チャーチルがこの日の午後、閣僚にどのような姿で接したのか正確に知ることはできないが、おそらく次のような場面が展開されたのであろう。

彼はハリファックスに、冗談ではないと言った。議事録によれば

“首相は、「フランスの目的がムッソリーニ氏を私たち同盟国側とヒトラーとの間の仲介役にすることであるのは明らかだ」と述べた。首相は「イギリスをこうした立場に置いてはいけない」と考えていた。”

イタリアからの調停へのオファーなるものをイギリスが受け入れた瞬間、抗戦の原動力が失速してしまうことをチャーチルは察知していた。イギリスの頭上に白旗が目に見えないように揚がり、戦闘意欲が消失してしまうであろうことを。

そこでチャーチルはハリファックスの提案に否と答えた。首相が国家の存続の危機について言葉を発したのである。これで十分と思われるかもしれない。そう、ほかの国であれば、この時点で議論は終わっていただろう。

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