チャーチルを「名宰相」たらしめた究極の選択 アカデミー賞受賞作でも描かれた緊迫の1日

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チャーチルは演説をまるでシェークスピア劇のクライマックスの場面のように終えた。

私が一瞬でも交渉や降伏を考えたとしたら、諸君の一人ひとりが立ち上がり、私をこの地位から引きずり下ろすだろう。私はそう確信している。
この長い歴史を持つ私たちの島の歴史が遂に途絶えるのなら、それはわれわれ一人ひとりが、自らの流す血で喉を詰まらせながら地に倒れ伏すまで戦ってからのことである。

英国最高の指導者・チャーチル

室内にいた男性たちはこの演説に非常に感動して喝采し、歓声を上げた。走り回って、チャーチルの背中を叩いた人物もいたという。チャーチルはこれでもかというほど議論を劇的に仕立てあげ、一人ひとりに訴えたのであった。

ドイツとの交渉に応じるか否か。これは外交問題などではなかった。自分たちの国を守り通すか、あるいは自分の流した血にむせ返りながら死ぬかの選択だった。戦いの前夜であった。チャーチルは原始的な、部族的な方法で閣僚たちに訴えたのだった。戦時内閣が午後7時に閣議を開始すると、すでに議論は終わっていた。ハリファックスは議論を降りた。チャーチルが内閣から圧倒的な支持を得たからだ。

本記事は『チャーチル・ファクター』(邦訳はプレジデント社、上の書影)を再構成したものです(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

イギリスは戦う。交渉はしない。その決断から1年以内に3万人に及ぶイギリス人男性、女性、子供たちが殺害された。ほとんど全員がドイツ人の手によって。屈辱的な和平か罪なきイギリス国民の大量殺戮かの選択肢を前に、「交渉をしない」という選択ができるチャーチルのような気骨ある政治家を現代において想像するのは難しい。

しかし1940年においても、これほどの指導力を見せることができる人は考えうるかぎりほかにいなかった。

ハリファックスよりも正しく事態を把握していたチャーチルは、交渉を拒絶することによってイギリスにも大量の戦死者が出ることを覚悟していた。戦い続けることは恐ろしい結果となるだろうが、降伏はさらに悪い結果をもたらすだろう。そのことを理解できるほど大きな、ほとんど無謀ともいえるような、道義心と勇気を彼は持っていた。チャーチルは正しかった。

ボリス・ジョンソン イギリス外務大臣、英連邦大臣

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Boris Johnson

1964年生まれ。イートン校、オックスフォード大学ベリオール・カレッジを卒業。1987年よりデイリー・テレグラフ紙記者、1994年から『スペクテイター』誌の政治コラムニストとして執筆、1999年より同誌の編集に携わる。2001~2008年、イギリス議会下院議員(保守党)。2005年、影の内閣の高等教育大臣に就任。2008年から2016年5月まで2期にわたってロンドン市長を務める。2015年、再び下院議員として選出される。2016年より現職。本書のほかに『The Spirit of London』『 Have I Got Views for You』『The Dream of Rome』など著書多数。

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