チャーチルを「名宰相」たらしめた究極の選択

アカデミー賞受賞作でも描かれた緊迫の1日

チャーチルはアメリカの参戦について希望的観測に満ちた弁舌をふるっていたが、アメリカが正義の味方として馳せ参じてくれそうな気配はまったくといっていいほどなかった。

ムッソリーニの背後に隠れるのは…

戦争による悲しみを体験していない家庭はほとんどなかった。そんな国民に再び22年前の第一次世界大戦のような悲惨な体験を強いるのは正しいことなのか? 公正といえるのか? 何のための戦いなのか?

閣議録によれば、会議の実質的な口火を切ったのはハリファックスで、真っ先に核心を突いてきた。彼は厚めのふちの丸めがね越しにこちらを見ながら、軽く握った右手を上げてこのように言ったことだろう。

「イタリア大使館がメッセージを送ってきた。イタリアを仲介者としてイギリスがドイツとの調停を求めるときが来た」

それは単なるムッソリーニからの提案ではなかった。ムッソリーニより立場が上の人物から送られたサインであった。ヒトラーの触覚がイギリスの官庁内を螺旋状に動き、下院の心臓部まで進入してきたのである。チャーチルは何が起きているかを完全に掌握していた。絶望に打ちひしがれたフランス首相が、ロンドンでハリファックスと昼食をともにしたばかりであるという情報も握っていた。

当時のフランス首相、ポール・レノーは、自国がもはやドイツに対してなすすべがないことがわかっていた。自分がフランスの歴史のなかで最も悲惨な人物の一人として記憶されるようになるだろうと自覚していた。

もしイギリスをヒトラーとの交渉に引っ張り出すことができたなら、この屈辱は自分だけのものではなくなり、多少は取り繕うことができるだろうとも考えた。とくに、フランスにとってより好都合な条件をドイツから引き出すことができるだろう、と。

そう、これがイギリスへのメッセージの中身だった。イタリア人が伝え、フランス人が支持したこのメッセージの発信源はドイツの独裁者だった。メッセージはイギリスが分別ある判断をし、現実と折り合いをつけるよう求めていた。

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