「大地震」その時に足りない仮設住宅のリアル 懸念の南海トラフ地震に必要なのは205万戸
コストは仮設住宅のあり方を左右する重要な要素だ。国は災害救助法に基づき、建物の工事費は上限で1戸あたり約266万円と定めていたが、昨年4月から約550万円に引き上げた。また、建設にあたっては、自治体と事業者の間で購入、リースのいずれかの契約が交わされることになっている。
リースの場合は建物の工事費用のほか、給排水施設や駐車場などといった関連インフラ整備に必要な費用や除却費が含まれ、1戸あたり600万円弱とされている。これは東日本大震災当時のコストを反映させたものだ。
ただ、熊本地震ではリース価格は1戸あたり約800万円となったという。要は、仮設住宅の建設コストは災害の規模や現地の状況、自治体の裁量次第なのであり、それを国がどう認めるかという、なかなかにあいまいなものなのである。
東日本大震災では地域のビルダーによる木造の建物、輸送用のコンテナを活用したものも登場した。これも国や自治体の裁量次第であることを表したものであり、大規模災害ならではの特別措置といえるが、いずれも一般的な鉄骨プレハブ造(組立タイプとユニットタイプからなる)の仮設住宅の工事費を上回るものだったという。
東日本大震災後、新たなタイプの仮設住宅も考案された。建築家の坂茂氏と、仮設建物大手で仮設住宅も供給する大和リースとの共同提案で、ボートなどの素材として使われる繊維強化プラスチック(FRP)を用いたものだ。
このほか、筆者は木造など何件かの新提案があったことを記憶しているが、いずれも主にコスト面がネックになり普及に至っていない。というより、途中で立ち消えになった。それは仮設住宅が常時必要とされるものではないからだ。そこが建築現場などの事務所としての利用から、仮設住宅にまで用途が転用しやすい鉄骨プレハブ造との大きな違いだ。
仮設住宅に対する誤解
仮設住宅に対する国民の理解はたいへんあいまいで、かつ誤解に満ちている。それは多くの人が「事業者は大災害を利用して大儲けしているのではないか」という先入観を持っていることだ。
前述したように、仮設住宅はその事業者が価格や仕様を決めるものではなく、国や自治体が決定するもので、事業者がコントロールできるわけではない。遠隔地から作業員を動員し、資材や建設機器を確保することなどを考えると、決して大儲けできるわけではない。だから、その先入観は誤りなのである。
なぜこのようなことを書くかというと、東日本大震災当時、仮設住宅建設を巡り厳しい世論が巻き起こり、施工の現場が大混乱し、結果的にスムーズな建設を阻害することとなったからだ。
当時の世論はこんな感じだった。「なぜ早く建てられないのか」に始まり、次に「大手ハウスメーカーだけで独占するのはしけからん」、そして最後には「なぜ(断熱や遮音)性能が低い建物を建てるのか」と。
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