「大地震」その時に足りない仮設住宅のリアル 懸念の南海トラフ地震に必要なのは205万戸

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この試算について、これまでの大災害で仮設住宅建設を担ってきたプレハブ建築協会に聞いてみた。その答えは、「(205万戸の仮設住宅は)住宅業界全体で建設にあたっても、半年や1年で完了するのはとても困難」(合田純一専務理事)という。

同協会はプレハブ(工業化)ハウスメーカーやシステム建築メーカーなどで構成される。国や自治体の要請を受け、東日本大震災はもちろん、阪神・淡路大震災、近いところでは熊本地震の際にも仮設住宅の建設に携わった。その団体が明言するのだ。「困難」という言葉の意味は重い。

困難なのは供給体制に限りがあるからだ。東日本大震災の後には、通常の仮設住宅以外に協会に参画するハウスメーカーの生産ラインをフル稼働して対応。それでも足りず、木造の住宅団体とその参画ハウスメーカー、地域のビルダーの協力を受け完成にこぎ着けた。

建設作業員も全国から被災各県に動員された。いわば、住宅事業者によるオールジャパンの体制だったわけである。東日本大震災で仮設住宅の建設を完了するのにほぼ半年を要した。南海トラフ地震の発生で試算される205万戸のうち建設でどれくらい担うことになるのかは不明だが、仮に半分の100万戸を供給するにしても「ケタが違いすぎて住宅業界だけでは追いつかない」(合田専務理事)のだ。

南海トラフ地震は、地震だけでなく津波も伴うとされ、被害地域は関東から九州・沖縄までの広域になると予想される。このため、生産だけでなく施工の体制面でも対応しきれるわけがないだろう。あくまで南海トラフ地震が最悪の想定で今すぐ発生した場合に限っての見解となるが、私たち国民は少なくとも仮設住宅に関しては大きな期待ができない。国や自治体、事業者による有効な対応ができそうもないからだ。

対策と備えは検討の域を出ない

国や自治体も危機感を募らせている。国は全国の都道府県を対象に「応急仮設住宅等に関するアンケート調査」(2016年12月)を実施しており、93%が「建設用地のリストアップができている」と回答していた。

それ自体は心強いが、建設用地が被害想定地域内にあるという回答もあった。また、民有地を使用する場合に所有者と協定を結んでいると回答したのは「一部」を合わせても11%に過ぎない。つまり、実際の仮設住宅建設にあたってこのリストアップには実効性がないケースがあるということだ。

東日本大震災では「仕様」も問題となり、建設にあたって混乱を招く要因となった。仕様とは間取りや設備、断熱性能などのこと。これについても前出のアンケートをみると自治体ごとで独自に定めているのは11%に過ぎず、「入居が長期化する大規模災害に備えた仮設住宅の仕様を検討しているか」については、「している」という回答はわずか5%だった。

「各都道府県に100戸分の備蓄ができないか」という議論もあるという。47都道府県を合わせた4700戸は205万戸に比べれば雀の涙だが、用意がないよりはましだ。しかし、これにはコスト負担の観点から実現が難しい状況だという。このようなことから、国や自治体の仮設住宅による対策と備えは検討の域を出ないものだと言わざるをえない。

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