1日1時間労働!人気作家の「集中力」の秘密 著作多数、森博嗣さんが語る意外な事実

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半年考えていても、その問題を「1日1回思い出す」というのは、当たり前ですが、半年間ずっと考え続けているわけではない、という意味です。でも、毎日思い出すくらいには、気にかけているということです。気にかけていれば、別のものを見たとき、連想もするでしょう。いろいろなものに対して、もしかしてこれを使えないか、これは似ていないか、とゆるい関連で結びつけることができます。これも、集中した思考には向いていない理由です。

ぼんやりと、なんとなく気にかけている必要があって、その境地に達するのに半年かかるということです。それで、一旦なんらかの発想があれば、あとは簡単です。ようは労働するのみです。ここに道がありそうだ、こちらに目的地があるらしい、とわかれば、あとは歩くだけなのです。小説の執筆であれば、タイトルが決まれば、10日2週間で書き上がります。もちろん、1日に1時間の執筆量でです。

この段階に至ると、むしろスピードが出すぎないように自分を抑えている感覚になります。気が短いので、目的地が見えたら一気に進みたいと思ってしまう方なので、疲れないように、仕事が雑にならないように、意識してゆっくりと進めます。自重しているわけです。

「どうすればよいか?」という質問がダメな理由

Q:「これは使える!」という発想を思いつくために、「集中した思考」は向いていないということですが、それはなぜですか? もう少し詳しくお願いします。

:分散というのか、発散というのか、イメージが人によって違うかもしれませんが、一点に集中していない状態が、発想しやすい頭なのだと思います。頭の中でどんなふうになっているのか、見たことがないので知りませんけれど、集中していては、一部のデータにしかアクセスしていないわけです。もっと別のデータ、まったく関連のないデータにも広く次々とアクセスする、ということですね。

もし、集中して見ているところに「こたえ」があるなら、なにも発想など必要ないわけです。計算したら結果が出ます。しかし、発想と呼ばれているものは、普通ではちょっと思いつけないような解を持ってくることです。それが、遠くから来るほど、誰も思いつけない画期的なアイデアだと評価される。でも、遠くにあるデータほど、範囲が広がるわけですから、処理が膨大になります。それを素早く関連づけるのは、閃きと呼ばれる一瞬の連想です。

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多くのデータをまず見ること、目の前のものや既存の概念に囚われないで、無関係なものをつなげてみたり、常識外れの解釈をしたり、無駄なことに注目したり、さまざまなタブーを頭の中で取り替え引き替え試すような多視点の思考が必要です。

もちろん、一方では、それらを客観的に観察し、これだというものを評価し見逃さないことも重要。ですから、きょろきょろとしている人と、その人を監視している人が少なくとも必要で、この人たちが何組も働いているわけです。これを、言葉にすると、「発散」あるいは「分散」みたいな表現になります。

Q:どうしても、その分散思考、発散思考をしたいと思ったら、どうすれば良いですか、と尋ねたくなりますが。

:その、どうすれば良いか、という手法が、集中思考の典型です。こうすれば良いという方法を求めようとしていますよね。そういう手法がない点が、分散思考、発散思考の基本なのです。

森 博嗣 小説家、工学博士

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もり ひろし / Hiroshi Mori

1957年愛知県生まれ。某国立大学の工学部助教授の傍ら1996年、『すべてがFになる』(講談社文庫)で第1回メフィスト賞を受賞し、衝撃デビュー。以後、犀川助教授・西之園萌絵のS&Mシリーズや瀬在丸紅子たちのVシリーズ、『φ(ファイ)は壊れたね』から始まるGシリーズ、『イナイ×イナイ』からのXシリーズがある。ほかに『女王の百年密室』(幻冬舎文庫・新潮文庫)、映画化されて話題になった『スカイ・クロラ』(中公文庫)、『トーマの心臓 Lost heart for Thoma』(メディアファクトリー)などの小説のほか、『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社文庫)、『森博嗣の半熟セミナ博士、質問があります!』(講談社)などのエッセィ、ささきすばる氏との絵本『悪戯王子と猫の物語』(講談社文庫)、庭園鉄道敷設レポート『ミニチュア庭園鉄道』1~3(中公新書ラクレ)、『「やりがいのある仕事」という幻想』『夢の叶え方を知っていますか?』(ともに朝日新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』(新潮新書)など新書の著作も多数ある。

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