1日1時間労働!人気作家の「集中力」の秘密 著作多数、森博嗣さんが語る意外な事実
疲れるというよりは、厭きるが近いかもしれません。集中できなくなる。目も指も疲れますが、それらはさほどでもなくて、厭きるというのは、つまり頭が疲れるということなのです。だから、集中していた対象から一旦離れ、つまりすっかり忘れて、別のことをします。それで、戻ってきたらリフレッシュしているから、いきなりトップスピードでまた書きだせるというわけです。
ですから、「よく厭きずに一つのことが続けられますね」と言われても、困ります。僕ほど厭き性で、一つのことを続けられない、集中力が持続しない人間も珍しいのではないか、と自覚しています。
Q:執筆に入ったら、たちまち書き始められる、というのは凄いと思います。没入するスイッチの入れ方はありますか?
森:そうですね、まず、音楽を聴きますね、iPodで。普段、音楽を聴くときは、真空管アンプで大きなスピーカをがんがん鳴らしますが、それは音楽を楽しむときのことです。そうではなく、執筆のときは、iPodとイヤフォンで決まった曲を聴きます。LPが10枚くらい入っているのですが、いつもそれです。順番も同じですから、なんというのか、耳栓と大して変わりがありません。
それを聴き始めたら、いきなり書きだします。まるで、条件反射のパブロフの犬みたいなものですね。習慣にしてしまったわけです。そして、10分間は、それ以外のことは考えませんから、たぶん集中できていると思います。
Q:では、執筆の「ルーチン」はありますか?
森:決まったものは、これといってありません。時間的にいつとも決めていません。朝から書くこともあるし、夜書くこともあります。執筆の10分間が、ばらばらに、あちらこちらの時間帯に飛び飛びにあるわけで、一日の全体に散らばっているときもあれば、出かけたりして、明るいうちに書けなかったときは、夜に、同じくばらばらに時間を取って書きます。
いずれにしても、毎日書きます。コンピュータのカレンダに、毎日何文字書くと記入して予定を決め、そのとおりに書きます。だいたい前倒しになりますが、決めた予定よりも遅れたことは一度もありません。親が死んで葬式の喪主をしなければならないとか、そんな事態に突然陥っても、予定を厳守しました。逆にいうと、それくらいゆるい予定を組むわけです。よほどのことがあっても、果たせるノルマを決めるということです。
脳を発想しやすい状態に変える
Q:では、抽象的なことを考えるときのコツはありますか? ご著書に、タイトルを考えるだけでも、半年の時間をかけると書かれていましたが、「1日1回思い出すだけ」ともありました。
森:大変難しい質問ですね。はっきり言って、わかりません。わからないから、時間をかけるしかないのです。頭脳は自然のものであって、機械ではない。だから、土に埋めた種が発芽するような時間が必要なのではないでしょうか。
発想というものは、そういうものだと思っています。これこれこう考えて、この方式で計算すれば思いつく、という手法がないわけです。それがあったら、半年もかからないでしょう。ただ、土から出てきた芽を発見するのは、自分自身の価値観です。発想を見極める目が必要ですね。それは、ある程度は経験的なものだし、また多分に客観的なものです。
これは使える、と判断するときには、その発想がどう加工できるか、それを他者はどう思うか、という瞬時の推測と他視点の観察が働きます。これは、想像力といってしまえばそうなのですが、発想ではなく計算に近いもので、たとえば、AIだったら、わりと簡単にこたえを導くでしょう。
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