1300年の伝統「大島紬」が迎えている危機 2016年の生産量は全盛期のわずか1.6%に

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2つの染めを交互に行う理由は、テーチ木のタンニン酸と泥の鉄分を混ぜ合わせることが狙いです。化学染料では具現化できない独特の黒い発色は、この化合によって生まれます。使い込んでいくごとに色は多少落ちていきますが、ある時点で色は安定し、そこからは落ちなくなるそう。奄美の自然を生かして行われるこの技法は他の場所ではなし得ないものであり、ヨウジヤマモトなどの世界的ブランドの染色も手掛けています。

2018年に吹く2つの追い風

気が遠くなるような工程を経て織り上げられる大島紬。どの伝統工芸にも後継者不足という問題がつきまとっていますが、大島紬も同じ課題を抱えています。奄美大島には大学がなく、進学と同時に島を出て行く若者が後を絶ちません。後継者の育成ができないことも、生産量が減っている1つの要因です。

では、今の職人さんたちとともに、このまま大島紬は消え去ってしまうのか。大島紬にとって、今年は大きな岐路になると筆者は見ています。

今年の夏、奄美大島は世界自然遺産に登録される見込みが高いとされています。もし登録されれば、ニュースで大きく取り上げられるでしょう。現在放映されている大河ドラマ『西郷(せご)どん』の舞台が鹿児島であることもプラス材料です。主人公である西郷隆盛は幕府に追われ、奄美に島送りにされます。今後奄美でのシーンが多くなると、奄美という場所への注目度もがぜん高くなるに違いありません。

テレビの影響力は大きく、沖縄のかりゆしウエアがヒットしたのは、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』がきっかけ。同じように、大島紬にスポットライトが当たる可能性も考えられます。奄美大島はバニラエアが就航しているため、東京や大阪、北海道から比較的ロープライスで行けることも追い風になるはず。観光客が増え、より多くの観光客に大島紬のことを知ってもらえれば、その中から「大島紬の技術を受け継ぎたい」という思う人が現れるかもしれません。

大島紬には多様な柄がある。写真中央が「龍郷柄」(筆者撮影)

復興プロジェクトはスタートを切ったばかりであり、具体的な戦略はまだ模索している段階ですが、個人的には着物以外のプロダクトでの生地の活用は1つのアプローチになると考えています。

大島紬には「龍郷柄」や「秋名バラ柄」などの伝統的な代表作をはじめ、柄のデザインが非常に豊富です。

生地が薄いため、そのままプロダクトに落とし込むことは難しいかもしれませんが、たとえばスーツの裏地であれば使えるかもしれません。スーツにこだわりたい方は多いため、ニーズはあるのではないでしょうか。

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