パナ津賀社長「事業は合理的ではない」の本意 「東京に何でもかんでも集中はおかしい」

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長田:しかし現実の企業行動を見ていると、株主重視経営が絶対視される流れの中にあっては、IR(投資家向け広報)を中心に「賢いふり」「合理的なふり」をしなくてはならない。合理的なふりをしているうちに、合理的に分析することが最大目的になり、それに向かってものを言い、振る舞う癖(思考・行動パターン)が身に付いてしまう。それが度を超せば、合理性原理主義に走る危険性が否めません。

今のパナソニックはどうでしょうか。「タブーなき改革」を強力に推し進めるため、納得性の高い合理性を話法も含めて過度に尊重していませんか。人で言えば「色気」「艶」、言い換えれば「魅力的な企業文化」。それが薄くなっていないでしょうか。AI(人工知能)が多くの人の仕事(日本では現在ある仕事の約半分)を代行する時代だからこそお聞きしたい。非合理的(文学的と言ってもいい)である人間組織をどのように動かしていますか。

津賀:私はもともと理科系で合理的な考え方をしますが、松下マンになってから、合理性により磨きがかかったのではないかと思っています。たとえば、創業者の言葉に「雨が降れば傘をさす」があります。これって、いったい何を言いたいだろう、と考えこみました。当たり前のことを言っているだけではないか、と。(実は、商売をするということは利潤を追求するということで、その当たり前の考えをつねに実践していけば商売はうまくいく、という意味)

「合理主義者」と見られている津賀社長だが、やっている事業については?(撮影:ヒラオカスタジオ)

創業者は商いの合理的な思考をわかりやすい言葉で表現する名人でした。つねに、一般の人のほうを向いておられた。昔は、学歴が高い人ばかりが入ってくる会社ではなかった。その中で、衆知を集める経営をするにはどうすればいいのかと考えた結果、わかりやすい言葉で合理的思考を伝授しようとしたのです。

私が合理的だからといって、われわれがやっている事業が必ずしも合理的なものであるとは思いません。たとえば、家電事業。これだけ成熟した事業で、毎年、新製品を出しています。この行動は、トータルで見たら合理的でしょうか。崩壊するかもしれない既存の自動車産業向けの電池事業に注力しようとしている。これは合理的か。やっている事業については、合理的か、合理的でないかで、決めていない。

クリエイティブなナレッジ・マネジメント

長田:最近、津賀社長は、マスコミ懇談会などでは、「座布団一枚」をあげたくなるユーモアを口にされるようになりました。懐メロの替え歌ではないですが「大阪で生まれた男(女)やさかい」、知らないうちに笑いの英才教育を受けられ育ったのかもしれません。「笑都」で生まれ、育った企業の社長として、組織における知的ユーモアについてどのようにお考えですか。

「わろてんか」をベースにした「ホワイト企業構想」を展開していますか。なぜ、このような質問をするかというと、冗談ではなく、柔軟かつクリエイティブなナレッジ・マネジメント(知識創造経営)において、ユーモアのセンスは不可欠である、という仮説を持っているからです。

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