トランプ氏が弁護士付きの「自主的な事情聴取」と弁護士抜きの「大陪審の強制聴取」の両方で、憲法修正第5条を十分に活用すれば、ミュラー氏が万事休すということになるからだ。
しかし、トランプ氏がその憲法修正第5条を十分に活用するとは限らない、とミュラー氏は読んでいる可能性もある。そういうスキを狙えば、まだ勝てる余地はある、とミュラー氏は狙っている。ミュラー氏は「偽証」を引き出すことにかけては、長年の蓄積がモノを言う、と信じている。
トランプ氏の事情聴取などをしたうえで、その証言と、コミー氏の数々の証言やメモとの間に「何らかの矛盾」を探し出し、それを基にトランプ氏の「偽証」を引き出す確率を最大化する。ミュラー氏にとって、それは技術的に難しいことではない。
トランプ再選に向けた「クルマの両輪」
米国には、真にトップクラスの刑事訴訟専門法律家は50人しかいない、と言われる。前述のダーショウィッツ名誉教授はもちろん、ミュラー氏やコミー氏もその50人に含まれる、と言えるだろうから、ミュラー氏が高い尋問技術を持っていることは確かだ。コミー氏も自分の証言とトランプ氏の証言との間に「矛盾」が生じやすいように、巧みに証言するだけの高いレベルの法的技術を持っている。
このミュラー氏とコミー氏というFBIチームによる「師弟コンビの合わせ技」としての、偽証を引き出す技術の包囲網を、憲法修正第5条をフルに活用せずに、打ち砕ける刑事訴訟専門弁護士は、いまの米国のどこを探しても、実在する可能性は薄いだろう。
ミュラー氏は、技術的に「偽証」に近い証言を引き出せば、司法妨害のほうは議会が認定しなくとも、偽証罪の立件をテコにして、「偽証罪および司法妨害罪という2つの訴因」で、トランプ氏の弾劾裁判開始を議会に要請するだろう、と予測できる。
だが、そのトランプ氏の弾劾問題は、ミュラー氏の思惑どおりには進行しない確率が高い。今回の「反トランプの偏向を示す秘密文書」の国民への公開と、それに関する議会共和党によるミュラー人脈への今後の厳しい追及とが、FBI師弟の信用力をさらに失墜させる可能性が高いからだ。
さらに、今回の秘密文書の公表を拠り所に、トランプ氏がミュラー氏のあらゆる事情聴取・尋問に対して、憲法修正第5条を的確かつ十分に活用すれば、議会はミュラー氏の捜査内容を全否定しやすくもなり、弾劾問題も終結することになる。つまり、トランプ氏の今後の「偽証」を引き出せなければ、司法妨害問題だけでは、ミュラー氏の敗北は確実だ。そこで、トランプ再選の可能性は劇的に高まるというわけだ。
すなわち、トランプ再選に向けた「クルマの両輪」とは、①ミュラー氏の尋問に対するトランプ氏による憲法修正第5条の十分な活用戦略、②ミュラー人脈に内包する「反トランプの偏向問題」に対する議会共和党の厳しい追及の2つにほかならない。今回、下院情報委員会で公開が可決された秘密文書をめぐる今後の展開に注目したいところである。
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