現に、FBIや司法省は共和党のニューネス委員長を目の敵にして、民主党寄りで、かつ「反トランプ」派が多い米メディアを使って、圧力をかけていた。その圧力は下院情報委員会内部にまでおよび、ニューネス氏は委員長でありながら、事実上、その任から外されかかるなど、政治的に潰されそうになった。
そのニューネス氏の窮地を救ったのはほかでもない、トランプ大統領その人だった。1月24日、トランプ大統領は、突然、ミュラー特別検察官による事情聴取を「楽しみにしている」と記者団に向かって述べたのだ。
もともとミュラー氏から事情聴取を受けることなどまったく考えていないトランプ氏が、突発的に、それを受けると発言したのは、民主党員やメディアの関心をニューネス氏からそらし、わざと自分に引き寄せるのが狙いだったとさえ言えると、筆者は見ている。
その狙いはまんまとツボにはまった。メディアの関心を自分に引き寄せることによって、ニューネス氏が調査・発掘した重要文書の公表を、下院議会で可決するまでの時間稼ぎが十分にできたからだ。ニューネス氏を守り抜くというトランプ大統領ならではの「天才的交渉術」のスゴさを見せつける一幕だったのである。
「反トランプ」の3人
この文書が公表されるといったい何が起こるのか。もしFBIがFISAを乱用して、トランプ陣営によるロシア疑惑を捜査していたことが明らかになれば、ミュラー特別検察官によるロシア疑惑捜査そのものが行き詰まる可能性がある。それはトランプ再選への大きなテコになりうる。
その文書の公表によって、「反トランプ」バイアスに固執している疑いのある人物として登場する、と米メディアで「事前報道」されているのは、以下の3人である。
1人目は、当時、FBI長官だったジェームズ・コミー氏。同氏は、昨年5月、トランプ大統領によって解任されたが、ミュラー氏に近い人物の中では、断トツの主要証人と言っていい。秘密文書公開の話が急浮上し、コミー氏の名前が含まれているとのメディアの報道に接して、ミュラー氏は心配でいても立ってもいられない気持ちとなったに違いない。
2人目は、アンドリュー・マケイブFBI副長官。同副長官の夫人には、ヒラリー・クリントン氏に近い政治団体からの巨額の寄付が明らかになっていた。同氏については、この3月に引退すると報じられていたが、1月29日、突然辞任を発表して、世間を驚かせた。その日は秘密文書公開の票決がなされた日でもあり、その関連性が今後問われる可能性もあるだろう。
3人目は、ロッド・ローゼンスタイン司法副長官。メリーランド地区連邦検察官時代、当時、FBI長官だったミュラー氏とコンビを組んで共同捜査をした切れ者である。この「共同捜査」というのが、実は、ロシア関連企業による賄賂疑惑など、別の「ロシア疑惑」だった。その事実を2人は議会にも国民にも情報開示していない。昨年、ローゼンスタイン副長官は、昵懇(じっこん)のミュラー元FBI長官を、特別検察官に任命した。
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