「第4次産業革命」で激変する2025年の世界 中国は製造業強国、独はインダストリー4.0

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こうしたゼネラル・エレクトリックの動きが、世界の製造業および製造業大国を大いに刺激しました。既存の製造業が生き残るためには思考の枠組みを変えるしかないと、大胆な戦略や発想の転換に踏み切らせることとなっています。(ゼネラル・エレクトリックの2017年12月期の決算は赤字に転落していますが、全7事業部門のうち業績が好調なのは、AIを活用した航空機エンジンと医療機器の2事業のみとなっています。)

ドイツでは第4次産業革命を意味する「インダストリー4.0」を推進し、「2025年までに製造業の生産性を2015年と比べて5割前後引き上げる」という目標を掲げています。最適な生産ライン同士がグローバルにつながれば、競争力は飛躍的に高まるはずだと考えているのです。

たしかに、この試みが本当に実現すれば、第4次産業革命といってよいほどの偉大な業績となるかもしれません。18世紀以降の綿織物工場に始まる、蒸気機関の登場による製造工程の機械化を第1次産業革命とし、20世紀初頭の内燃機関と電気による大量生産時代が第2次産業革命、1980年代以降のコンピュータによる自動化の進展を第3次産業革命と考えれば、第4次産業革命とは、AIを備えた自動化工場が業種を超えてネットワーク化され、国家として立地競争力を競う時代と考えることができるでしょう。

「製造業強国」目指す中国、大半の工場労働者は不要に

ロボットの導入が本格化し始めた中国でも、政府内では2025年までに製造業を知能化させる「中国製造2025」という計画が進んでいるところです。汎用品に強い中国の製造業をさらに高度化させて、現在の「製造業大国」から将来は「製造業強国」に移行するシナリオを描いているようです。

中国の企業経営者は近年、人件費の高騰にとても悩んできたので、この計画はまさに渡りに船であるといえます。というのも、工場の働き手の中心を担っているのは、経済が急速に発展するなかで何不自由なく育った20代~30代の若者だからです。賃上げやその他の要求が多い若者に比べれば、ロボットのほうがはるかに管理は簡単なのです。政府も企業にロボットの導入を多額の補助金で支援しているので、自動化工場の流れは他の国々よりも早まっていく可能性が高いと思われます。

今の世界の趨勢は、AIによって自動化された工場が増え続けていくということです。各国が製造業の生産性をいっそう高めるために、できるかぎり雇用を必要としない工場が模範とされる時代に入ってきたのです。おそらく10年後には、大企業の一部の工場では完全自動化が現実になるでしょうし、この流れに早く対応できなかった国々は製造業では負け組になってしまうでしょう。

ただし、本質的に見逃がしてはいけないのは、工場の完全自動化が生産性を高める最大の要因が人件費を必要としない点にあるということです。きっと20年後には、アメリカ、ドイツ、日本、中国などの大手製造業では特殊なケースを除いて、大半の工場労働者が必要とされなくなります。このトレンドは不可逆的であるといえるでしょう。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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