「カレーを1からつくる」とはどういうことか 米も野菜も肉も食器もつくってみた
はじめは150人ほども詰めかけた人気ゼミだが、やがてどんどん人が減ってくる。正直なものである。
まあ無理もない。読んでいても「確かにちょっとそこまでできないよ」と言いたくもなる。が同時に、それはとりもなおさず、どこかで誰かが私たちの「できないよ」を変わって担っているからなのだと気づかざるをえない。
「ゼロ」ではなく「一」
関野教授は「一から作る」という。実はこの何気ない一言が大切なのだ。
ああ、「一から作る」という段階で、もう恩恵を受けているのか。そうだったのか。それは十分な恩恵である。最後まで残った学生たちは、一皿のカレーライスを目指していよいよ奮闘していく。
そして、育てた命を食べる時、最大の葛藤が訪れる。学生たちの議論は、自分もその中にいるような気持ちで読んだ。
命を貰い受けることから逃れた民族はいないらしい。そこから目を逸らす民族はいるかもしれないが。
さて、紆余曲折あって、最後にどんなカレーライスが出来上がったか。きっちり調理し、しっかり食べるまでがミッションだが、最後の最後まで一筋縄でいかない。さて、その味は、本書を読んで想像してほしい。一生に一度の一皿だったことはまちがいない。
本書には学生たちの迷いや戸惑いや決意が、ありのままに書かれている。一緒に参加しているような気持ちで読んだ。そして、料理を作る時、いままでよりはちょっと、食材を丁寧に触るようになった。科学は発展し、社会システムは複雑化し、あらゆるものが便利になって、何がどうしてこの世がまわっているか、もはやすべてがブラックボックスの中である。が、心の片隅にでも「ゼロではない、一」を感じておきたい。そう思わされるのだった。
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