占領下で高まるパレスチナ人の孤独と閉塞 「見過ごしている国際社会も大きな責任」

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山村:さらに、パレスチナ人は日本に対してシンパシーを感じています。戦後復興から人々の力だけで経済大国になったという精神性も非常に尊敬していますし、日本に対するイメージもすごく良い。「日本大好き」ということを現場でも言われます。今非常に際どいところもありますが、武力を使わず今まで平和外交を行ってきたことで日本が世界で築いてきたイメージを、ぜひ壊さないようにしてほしいなと思います。中東の地で活動するためには、「日本=武力」というイメージになっていないことが非常に大事になります。パレスチナとつながることで皆さんの生活が豊かになるという側面もあると思っています。

「私たちはいつでも妥協する用意があります」

最後に、2017年12月、トランプ大統領の「エルサレム首都宣言」後にJVC現地駐在員がインタビューしたパレスチナに暮らす父子からのメッセージを紹介します。

息子:私からしてみれば、トランプがエルサレムをイスラエルの首都だと認めたのは、過ちです。彼はその行為の悪影響を理解しておらず、更に危険なことに彼はこのような発表を行うことで、自動的にイスラエル側についたということになります。ですので、この先長期的に和平交渉をした場合、アメリカは妥当な話し合いのパートナー、妥当な仲介者ではありません。尚、イスラエル側についたことになり、すなわち将来の和平交渉でイスラエルはエルサレムに関してそもそも交渉しないと思われます。「もう既に決まった話だ、エルサレムはイスラエルの首都だと認められている」と頑なになるでしょう。ですので、エルサレムはパレスチナ人にとって戦えずに失ってしまったものです。我々が使っている表現は、「ボトムラインまで到達してしまった」。もちろん何の権利もないのです。この土地と縁のない人間が、この土地が誰のものか決める権利はないのです。

父親:一線を越えるとイスラエルとの交渉の余地がなくなります。エルサレムがイスラエルのものになれば、私たちの国には首都がなくなってしまいます。交渉の余地はありません。トランプは、これまでの交渉ルールを一掃したいのです。

息子:平和に向けたプロセスの終わりです。オスロ合意があったのに、突然トランプが登場し、最終的な和解に関して勝手に決断を下しました。

(今後どのようなことが必要だと思いますか?)

息子:アメリカはもう信用できません。どこか他の国、例えば日本や中国、ヨーロッパなど、新しい仲介者を探さねばなりません。もしかすると日本政府がイニシアチブをとるかもしれません。平和的解決への道が閉ざされたのですから、別の道を見つけなければなりません。例えば、一国家解決です。イスラエルが同意するかどうかはわかりませんが、検討する価値はあるでしょう。

父親:私たちはいつでも妥協する用意があります。平和を得るためなら、私たちは、歴史的なパレスチナの国土、その78%をイスラエルに与えることに同意します。私たちは(残りの)22%の国土に住みます。しかし彼らは土地を欲しがるけれど、私たちに平和はくれません。まるで穴だらけのスイスチーズのように、あちこちに入植していきます。息子が言ったように、私たちは、一国家解決に向かわなければならないでしょう。つまり、皆で同じ土地で暮らすということです。私たちパレスチナ人もイスラエル人も誰もが平等なのですから。小さな領域を細かく切り分けるのは大変です。なので、これが解決策の一つかもしれません。日本をはじめ、世界の人たち、そしてアメリカの人にもお願いします。トランプの発言を無視してください。尊重しないでください。これが私たちからのお願いです。フランスや日本、中国政府に仲介者となってくれるようにお願いしてください。

(息子さん、国際社会と日本の皆さんに向けて付け加えることはありますか?)

息子:私も父の意見に同意します。国際社会が私たちの声に耳を傾けてくれるよう、私たちを一人ぼっちにしないようにしてください。

(国際社会はまだ十分な行動をとっていない、もっと行動する必要があるというのですか?)

息子:例えば、アメリカ大使に対して抗議を行い、イスラエルに対する制裁を行うとか、取引をやめるとか、ボイコットを行うとか。発表は間違いだったと認めさせるとか、それが一番だと思います。

(最後に、日本の皆さんに向けて付け加える言葉はありますか?)

父親:日本の都市や地方で抗議行動をしてほしいです。

息子:私たちとの連帯を示してほしいです。

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GARDEN編集部

『GARDEN Journalism』(https://gardenjournalism.com/)は、公益事業者の発信を支援するプロジェクトGARDENが運営するニュースメディア。社会問題と向き合い、困っている人たちの一助になろうと奮闘している、NPOやNGO等の方々の活動を取材し、動画と記事で発信している。

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