占領下で高まるパレスチナ人の孤独と閉塞 「見過ごしている国際社会も大きな責任」
堀:「前はいなかった」という「前」はいつ頃のことでしょうか?
山村:去年(2017年)に入って特に電力不足が激しくなっているので、その前と比較してというニュアンスです。ガザの難民キャンプに暮らす20代女性の友人が、「自分の家から仕事場に行くまでに、前は同じ道で2、3人しか物乞いを見なかったが、先週カウントしたら20数人だった」と。10倍くらい増えていると彼女もショックを受けていました。ガザ全体が閉塞感を持っているので、「もうすぐ次の戦争が起こるのではないか」という話もするようになってさらにふさぎ込んでしまっています。「ポジティブでいようとすることが本当に大変なの」と涙ながらに訴えている声も聞きました。
堀:閉塞感が暴発するような、なんとか均衡を保っている状態がいつはじけてもおかしくないという状況が続いているんですね。
山村:そうですね。貧困を元に離婚しなければならない夫婦も今増えてきているということも聞きます。
堀:どういうことですか?
山村:子どもを育てていけないので、夫が妻と子どもを実家に返してしまう。しかし実家に返しても貧困で育てられないので、子どもの何人かは父親の方に残すというケースもあります。ガザでも一握りの裕福な方はいらっしゃいますが、貧困レベルが非常に深刻だし拡大しているというのはあると思います。
堀:僕が訪ねた時(2017年4月)よりさらにまた深刻さが増しているのでしょうか?
山村:そうですね。「ファタハ(*5)」と「ハマース」が2017年10月に和解し、統一政府樹立に向けた動きが出てからは、電気は3時間だけ多くなったり、公務員の給料が少しずつ戻ってきたりということはありましたが、非常に進んだ貧困を急に回復するというのはなかなか難しいのではないかと思います。
(*5)パレスチナ自治政府の中核組織
自分たちの力で立ち上がり乗り越える力を育てる支援
堀:山村さんは現在、パレスチナで具体的にどのような支援活動をされているのですか?
山村:私たちは、東エルサレムとガザの2カ所で活動しています。東エルサレムでは先ほど説明したような、青少年が問題解決の手段として暴力というものを使ってしまうという事件が起きていることもありますし、毎日占領下で不満を抱えたような状態で彼らが健全に育つというのは非常に難しい。なので、そういった若者たちの「レジリエンス力(抵抗力)=しなやかに立ち戻る力」を高める。「この状態に慣れてくださいね」という抵抗力ではなくて、「どんな困難なことがあってもしなやかに立ち戻る力」を育てるプロジェクトを行っています。
具体的には、検問所の近くなど特に困難な状況にある学校を選び「保健委員会」を作り、そこの学校の子どもたちが自分たちの問題を発見し、それを地域の人たちと協力しながら解決していく。地域を繋げ直すという意味合いもありますが、学生たちが自尊心を取り戻すことにも繋がっています。さらに、「抵抗というのは暴力を振るうだけが、石を投げ返すだけが、刃物で立ち向かっていくだけが抵抗じゃないんだ。暴力以外の方法で地域の人たちと協力をして自分たちの問題を解決していくということが抵抗になるんだ」ということを子どもたちが認識してくれるようになっているので、これからも続けていく予定です。