占領下で高まるパレスチナ人の孤独と閉塞 「見過ごしている国際社会も大きな責任」

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:トランプ大統領がスピーチをした日はどんな状況でしたか?

山村:あの日は朝から仕事の合間にパレスチナ人の方たちにインタビューをしていました。「さすがにトランプ大統領であっても、イスラエルの首都がエルサレムという発言はできないだろう」とパレスチナ人の方が言っていたように、「まさか言わないだろう」という意見を持っていた人が多いように思います。実際に現地のニュースでも、「ハマース(*1)」の指導者イスマーイール・ハニーヤ氏が「戦争も辞さない」と、「戦争」という言葉を実際に言及していたので、私も「まさか言わないだろう」という気持ちにもなっていました。

しかしその日、アラビア語の授業中ずっとパソコンを見ながら中継をチェックしていたパレスチナ人の先生が、「今、まさに彼がイスラエルの首都はエルサレムだという発言をしてしまった」と。発言がなされた瞬間、下の階からアラビア語学校のガードさんが登ってきて、「もう終わりにするように」と言われました。先生も、検問所が荒れるのですぐに解散にしますということで。クラスメイトのアメリカ人とアラビア語の先生はベツレヘム(*2)からエルサレムに通っていたので、その2人は「検問所が荒れる前に家に帰らねばならない」ということで授業が終了時間の30分前くらいにお開きになりました。先生がその時に、「トランプ大統領は非常に愚か者だ。これで何人のイスラエル人・パレスチナ人が死ぬかということを彼は全く分かっていない」という発言をしていたのが印象的でした。

(*1)ハマースは、国際的にはテロ集団とも呼ばれる政党。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム系組織。

(*2)パレスチナのヨルダン川西岸地区南部のベツレヘム県の県都。エルサレムから約10km。パレスチナ自治区に属しており、ベツレヘムに入るにはイスラエル側の検問を経なければならない。

:一緒に勉強をしているアメリカ人も複雑な受け止めだったんじゃないですか?

山村:そうですね。彼女はベツレヘムでパレスチナ人に英語を教えています。アラビア語もすごく勉強していて、パレスチナ人に対する知識もすごくあって、現地の人に寄り添っているような立場の方なんです。学校からの帰り道に一緒に階段を下りながら、「本当に恥ずかしい。本当に信じられない」ということを何回も繰り返し言っていたのが印象に残っています。

「アメリカは仲介者としての役割を完全に失った」

:実際にガザ、エルサレムの方たちはどのような様子でしたか?

山村:現地でインタビューを撮ったり、日本に帰ってきてからもチャットで話をしたりしたのですが、「自分たちの土地のことを、縁もゆかりもないトランプという愚かな大統領に決められたくない。エルサレムの暮らしがどんなものであるかを彼は知らないし、全く思い入れもない人に、エルサレムのことを決められたくない」「エルサレムは永遠にパレスチナの首都だ」という怒りがありました。

ただ、同時に、トランプ大統領の発言があって急に暴動が起きたというよりかは、普段の占領下の生活の積み重ねで彼らが抑えてきていたもの、抱えてきたものが、あの発言によって外に出るようになったというだけだと思うんです。あの発言に驚いたというよりは、いつも抱えていた鬱憤や日頃のストレス、不満のようなものが、あの発言によって出た。トランプ大統領の発言は、本当ちょっとのきっかけで、大きなきっかけではなかったと、私は現場にいて感じました。特に、トランプ大統領の発言の前から「『オスロ合意(*3)』は失敗だった」という人々の声を聞いていたのですが、「それが証明されてしまった。和平合意は終わった」と発言をするパレスチナ人も多かったです。さらに、「アメリカは仲介者としての役割を完全に失った」という発言もあちらこちらから聞かれましたし、「もともと仲介者だと思っていないわ」という発言をするパレスチナ人もいました。「これからは日本や中国、フランスに仲介になってほしい」と言う方もいました。「アメリカ以外の仲介者をとにかく探さなければならない」という雰囲気は絶対にあると思います。

(*3)1993年9月に調印されたパレスチナとイスラエルの和平に関する合意。パレスチナ暫定自治の枠組みなどを定めた。

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