一流のトレーダーと漫画家に共通すること 特別対談 松本大×三田紀房(その2)
三田:確かに漫画家の世界も、売れなかった原因をすべて人のせいにする人は、なかなか世に出てくることができません。「自分はいい作品を生み出している。それなのに、読者アンケートで人気が上がらない。ようやく出した漫画も売れない。これは世間が私のことを理解していないからだ」などとばかり言っている人は、売れる作品を生み出そうという努力をしなくなるからです。その点、トレーダーと同じように、漫画家も成功するためにはある程度の謙虚さが必要だと思います。
ただ、自分の着眼点、発想、アイデア、作品に対してまったく自信がないという人も、まず世の中には出て来られない。インベスターZの場合は、子供が学校の基金を運用するという前提を作れば、きっと面白い漫画になるだろうという自信がありました。本当に面白いかどうかわからないというような、自信のない状態で作品を描いたとしても、それは作品に迷いがあるから、読者からすれば面白みのないものに仕上がってしまうのです。
松本:謙虚で、自分の失敗を認められること。失敗を次に生かすべく、トライ&エラーを繰り返せる研究心を持っていて、実際にそれを行うという努力に裏付けられた自信が兼ね備わっている。漫画家もトレーダーも、そういう人たちが成功するのだと思います。
努力は大事。トレーダーって、何やら儲かるのも、損するのも運次第というイメージが強いと思うのですが、努力は大事ですよ。これは、おいしい料理を作るためには下ごしらえを十分に行うのと同じです。自分が今、どういうポジションを持っているのかをしっかり把握したり、情報収集など売買の判断を下すための準備に時間を費やしたり、とにかくいろいろな下準備があって初めて、トレーディングに参加できるわけです。
三田:努力を続けていくためには、あきらめないことも大切です。先日、僕のアシスタントを長年務めてくれた人が、ようやく連載を持って独立したんですよ。ただ、あっさり連載が持てたわけではありません。僕のところを辞めた後、彼はたくさんの編集部を回って、作品を見せたそうですが、どこもなかなか取り上げてくれなかった。漫画の連載を持つというのは、とても大変なことなのです。
彼は結婚をしている。一家の大黒柱として稼がなければならない。連載が持てない漫画家は収入ゼロですから、やはり心細くなったのでしょう。もう一度、僕のところでアシスタントをしたいと言ってきた。
そこで僕は、「あきらめるな、もう一度、編集部にお願いしに行ってみろ」と言って、彼にはっぱをかけた。そうしたら、本当に願いは通ずるというか、偶然というか、その編集部がちょうど絵を描ける人を探していたというのですよ。
編集者が作った原案を基に、それを漫画にできないかと言われ、彼はそのラフを3日間で描いて持っていったそうです。これで連載が決まった。この話を彼から聞いたとき、あきらめてはいけないということを、あらためて思いました。