読者の多くがご承知だろうがiPhone Ⅹは顔認証でロックを解除できる。この機能は実用的に便利なのだが、「こいつは俺のことを見ているな」という実感が湧いて、少なからず気持ちが悪い。
今のところ、アップルにとってもその他の業者にとっても、自分は取るに足らない存在だから興味の対象ではないと思うので、大して気にしないが、誰かが自分の行動を追おうと思った時に、詳細な顔データがすでにネット上に存在することは意識しておくべきなのだろう。
家の中には「オーケー、グーグル」と呼び掛けるとさまざまな問いに反応するグーグルホームのスピーカーもあり、「こいつは、いつも聞き耳を立てているのだな」と(時々)思う。昔の諺に言う「壁に耳あり、障子に目あり」である。
ネットを見ていると、自分がたまたま検索した商品やそれに関連する商品の広告が頻繁に出てくることを意識する人が少なくないだろうし、ネット書店のお勧めメールから本を買ってしまったりすることが少なくないし、時には便利でもあるのだが、こうした「外からの刺激」に購買行動と支出が影響を受けていることは否めない。
他人の勧めを疑う「経済的反射神経」を持て
世間を見ると、検索エンジン、SNS、ネット通販、家計簿ソフト、金融機関など数え切れないほどのビジネスの主体が個人の購買行動の履歴をデータとして持って、これを経済価値に変えようとしていることがわかる。
個人の支出のデータを誰が持つかは重要な問題だ。たとえば、中央銀行がデジタル通貨を発行して、これを個人・法人間で直接やり取りできるようになると、銀行は中抜きされて、決済のデータを失い、経済的なパワーの源泉を大いに失うだろう。さりとて、中央銀行が、銀行フレンドリーなユーザーにとって余計なコストの掛かるデジタル通貨に進むなら、民間(や外国政府?)が提供するより便利なデジタル通貨に、法定通貨が駆逐される可能性がある。今後のビジネスを見るうえで「個人の支出のデータを誰が持つのか?」が決定的に重要だ。
一方、個人の側では、自分の目の前に現れる「お勧め」を意識的に疑うような習慣が、言わば経済的反射神経の一つとして必要になる。
地位財からも、お勧めからも、世界はあなたの支出行動に影響を与えようとしている。完全に主体的であることは多分不可能だし、快適でもないだろうが、外界が自分の購買行動に与えている影響に対して意識的であることが有益だ。
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